原発ゼロをめざす北九州市民集会 1200人が参加 2011.9.14


  •  東日本大震災と、それに続く福島第1原発事故から半年を前に、「原発ゼロをめざす北九州市民集会」が9月9日、北九州市小倉北区で開かれ、小雨にもかかわらず1200人の市民らが参加。
  • 集会後、JR小倉駅までデモ行進した。福岡・医科協会の松井岩美会長と歯科協会の杉山正隆副会長をはじめ、ジャーナリスト、弁護士、大学教授、牧師らが呼び掛け実現した。

1200人が参加し北九州・小倉の繁華街をデモ行進。「原発ゼロをめざそう」と道行く人々に呼びかけた。

  •  集会で、東京都に夫を残し3歳の娘を連れて実家のある福岡県内に避難した刀禰詩織(とね・しおり)さんが「子どもを守る責任が私たち母親にある。安心して子どもを産み育てられると確信できる日本にしてほしい」と涙ながらに語り、早急な原発廃止を訴えた。

  • そして、佐賀県の九州電力玄海原発1号機の即時廃炉をはじめ、迅速・計画的にすべての原発廃止を政府に訴え、原発ゼロを目指し行動し続けることを宣言する「集会アピール」を採択。九州電力に対し、玄海原発の即時廃止などを求めていくことを確認した。

夫を東京に残し3歳の娘を連れて福岡県内に避難している刀禰詩織さんが 「安心して子どもを産む育てる日本にしてほしい」と訴えた。


  •  北九州市は、玄海原発から約100キロ、愛媛県の四国電力伊方原発から約130キロにある。福島県内や首都圏などから同市に避難している市民は100人を超しているとみられる。

  • 参加者らは「原発ゼロをめざそう」「原発から自然エネルギーへ転換しよう」「玄海第1原発をストップしよう」などと口々に訴え、北九州・小倉の目抜き通りを1キロにわたりデモ行進した。「これ以上、人災を拡げるわけにはいかない」と途中、飛び入り参加する市民の姿も。 


10thICAAP(アジア・太平洋地域エイズ国際会議)が釜山で開催
問題解決に向け70か国3000人が活発に議論


[速報]10thICAAP(アジア・太平洋地域エイズ国際会議)が釜山で開催
問題解決に向け70か国3000人が活発に議論


  •  「多様な意見、結束した行動」をテーマに、第10回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP)が、8月26日から30日まで韓国・釜山で開催され、日本からの100人を含め世界70か国から感染者やNGO関係者、医師・歯科医師、研究者、学生ら3000人が参加。
  • 医学や教育、人権、宗教、政治、女性問題等について2500の演題などで活発な議論を繰り広げた。
  • 陳壽姫(チン・スヒ)保健福祉部長官

  • 韓国の陳壽姫(チン・スヒ)保健福祉部長官が開会式でスピーチ中に一部のNGO関係者たちが抗議行動を行い10分近く中断したほか、会場内でのデモを巡って警察と参加者の間で小競り合いとなり1人が一時拘束されるなど、荒れ模様の会議となった。

  •  エイズ問題で重要なのは感染のリスクが高い「キー・ポピュレーション」だ。今回の会議でも、MSM(男性同性愛者)や性産業労働者、薬物使用者ら弱い立場にある人たちをどう支援するかが大きな柱となった。
  • エペリ・ナイラティカウ大統領「JYJ」

  •  開会式には、国連エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シデイベ事務局長や、フィジー共和国のエペリ・ナイラティカウ大統領ら政府首脳や高官らが出席し、各国政府がさらに取り組みを強めるよう訴える発言が相次いだ。また、親善大使に委嘱された韓国の人気グループ「JYJ」は記者会見で「エイズに対する偏見をなくしたい。何ができるかみんなで考えたい」と若者らに連帯を訴えた。

  •  日本からも多くの演題発表がなされたほか、厚生労働省の外郭団体、エイズ予防財団や、JHC(HIVと人権・情報センター)、難民を守る会がブースを出すなど、各国からの参加者との交流を深めた。

  •  UNAIDSの報告書「HIVゼロ達成に向けて」によると、同地域のHIV陽性者数は2009年時点で490万人前後と推定。05年以降、ほぼ横ばいで推移している。01年に45万人だった年間の新規感染者数は09年には同36万人と2割減、子どもの新規感染は06年以降15%減少するなど、成果が上がっていると指摘する。

  •  一方で、同地域内で標準的な「抗レトロウイルス」治療薬を必要とする人のうち60%以上が手に入れることができていない。UNAIDSは、対策に必要な資金の3分の1しかなく、各国などからの援助額も10年度からは減少に転じるなど、厳しさを増していると強調する。

FTAが新たな問題に

  •  エイズの最初の症例が明らかになって30年。FTA(自由貿易協定)が締結されることで、特許などの知的所有権が強化され、インド製などの安価なジェネリック薬が買えなくなるHIV感染者が世界的に大幅に増えるとの懸念が広がっている。

  • ※FTA(自由貿易協定)が締結されるとエイズ治療薬のジェネリックが手に入らなくなると抗議のデモが頻発した

  •  一部の関係者は、FTAとともに、韓国などで残るHIV陽性者らへの渡航に対する規制などを問題視。会議への韓国政府の資金供出が少額にとどまったこともあり、会場内で抗議活動が頻発したほか、「会議をボイコットすべき」との主戦論まで飛び出した。保健、警察、法務などの韓国政府機関とNGOとの関係も十分構築されていない、という。

  •  来年は世界会議が米国・ワシントンDCで、次回2年後のICAAPはタイのバンコクで開催される。日本でも公式の感染者数は2万人弱だが、実際には数倍の感染者が生活しており、差別や偏見が依然残っている。問題解決のためには医師・歯科医師を含め、多くの人々が多様な意見を認め合い、知恵を絞り結束するしかない。

(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆)

第10回アジア・太平洋地域エイズ国際会議プログラム

  • [10th ICAAP 会議プログラム]
  • トラックA~Fの6つの柱

  • トラックAは「進化するアジア太平洋地域のHIV 感染症の疫学」
  • (The evolving epidemiology of HIV in Asia and the Pacific)

  • トラックBは「基礎・臨床科学の進歩 」
  • (Advances in basic and clinical sciences)

  • トラックCは「ユニバーサル・アクセスの課題への対処~治療・ケア・支援・予防・社会保障」
  • (Meeting the challenge of Universal Access- Treatment, Care, Support, Prevention and Social Protection)

  • トラックDは「リーダーや活動家の育成・支援~政治・経済・宗教・文化・若者・メディア」
  • (Building and supporting leaders and advocates - Politics, Economy, Religion, Culture, Youth, Media)

  • トラックEは「効果的な取り組みのためのコミュニティの強化~HIV 陽性者・MSM・セックスワーカー・トランスジェンダー・薬物使用者・移住労働者・被収容者」
  • (Engaging communities for effective responses - PLWHA, MSM, Sex Worker, Transgender, IDU,Migrant, People in prison)

  • トラックFは「人権、法律及び政策に関する問題の克服」
  • (Overcoming human rights, legal and policy barriers)






UNAIDSのシディベ事務局長が訪日

UNAIDSのシディベ事務局長が訪日

2010年9月7日

  • UNAIDS(国連エイズ計画)のミッシェル・シディベ事務局長が9月2日、日本記者クラブで記者会見。翌日の3日にはエイズ治療の最前線を取材した写真展「命をつなぐ」で記念講演するなど精力的に日程をこなした。

  • 記者会見で、シディベ事務局長は世界のHIV(エイズ・ウイルス)感染者は10年間で17%減少し、治療を受けられる人も50万人から500万人へと10倍増となったことを説明。その一方、経済危機のあおりを受けて、先進国を中心にエイズ対策への資金拠出に消極的になっており、エイズをめぐる環境は「過去最高に良好とも言えるが、同時に、最悪な状況でもある」との認識を表明した。

  • アフリカやアジアなどでは1日1ドル(約85円)以下で生活している人が少なくなく、貧困などを理由に治療が受けられない人は1000万人以上いるとみられる。シディベ事務局長は「各国やNGOなどが連携し取り組みを強化する必要がある。日本はその重要な役割を担っている」と話した

  • 写真展では、挨拶に立った菅直人首相と会談。9月20日から3日間の日程でニューヨークで開催される国連の「ミレニアム開発目標サミット」(MDGs)に関連して、「世界基金への支援を通じ地球規模のエイズ対策への支援を表明できるよう私は最善を尽くす」と述べた菅首相に対し、シディベ事務局長は「『世界エイズ・結核・マラリヤ基金』(世界基金)に対する4番目の拠出額である日本の貢献により、世界で数百万人もの人命が救われている」と感謝の意を表明した。

  •  シディベ事務局長は、菅首相のほか、長浜博行・厚生労働副大臣や外務省幹部らと会談し、エイズ対策が国際的な政策的課題として引き続き維持されるよう、日本に協力を求めた。JICA(国際協力事業団)幹部や日本サッカー協会会長、訪日中だったスペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相らとも会談した。

  •  東京大学医科学研究所での講演では、シディベ事務局長は「UNAIDSは2015年までにHIVの新規感染者を0にする、との野心的な目標を持っている。東京には、G8(先進8ヶ国)での、その最初の首都になって欲しい」と話した。

  •  シディベ事務局長は新宿のMSM(男性と性交渉する男性)のコミュニティセンターである「akta」も訪問した。日本のHIV感染率は0.01から0.02%と低い率ではあるが、新規感染が依然、増加していることに注目すべきだ、と話した。


国際エイズ会議(AIDS2010)


第18回国際エイズ会議
宣言文書に2万人が署名
日本は患者増加にも危機意識低く

2010年8月31日

 今年7月、オーストリアのウィーンで第18回国際エイズ会議が開かれ200カ国から感染者や研究者、NGO関係者ら2万人が参加した。各国の記者1300人が取材に当たり、TV各社が設置した放送センターは49に上った。一方、感染者が先進国で唯一目立って増えている日本は関心も予算も低く報道も限定的だった。

(歯科医師・日本ジャーナリスト会議運営委員 杉山正隆)


 開催国の国家元首が開会式で挨拶し、各国の政治・経済のリーダー、NGO関係者が顔を揃える。3340万人がHIVと闘っている実態を考えようと、家族連れで参加する市民の姿も。数多くのデモやイベントを通じ「人権」を強調する場面が随所で見られた。

 ビル・クリントン元米国大統領、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長のスピーチなど、毎年300万人が新たに感染、200万人が亡くなっている現状を憂い、先進国などが国際公約した資金拠出を実行に移すよう訴える発言が相次いだ。次回2年後の会議を開催する米国のバラク・オバマ大統領もビデオメッセージを寄せ、連帯の挨拶をした。

 世界を驚かせたのが公式宣言文書「ウィーン宣言」だ。科学的根拠に基づく違法薬物政策を世界に要請。グルジアの厚生労働大臣、大統領夫人らがメディアセンター内で署名式に臨むなど2万人近くが署名した。

 学会首脳は「薬物使用には厳罰でなく医学的に対応すべき。人権を尊重・擁護できHIVなどの予防効果も高まる」と話す。日本も重い刑罰等を課す国の1つだが、違法薬物使用者に患者・被害者の側面があるのも事実なのだ。

 国内で6月27日までの3ヶ月間に報告があった新規エイズ患者は四半期では過去最高の129人。前回より4割も増加したことに衝撃が拡がっている。エイズ動向委員会の岩本愛吉委員長は「エイズの症状が出て初めてHIV感染に気付く人が多い。早い時期に発見できるよう対策を強化すべきだ」と話す。

 関係者は「政治家とメディアの無関心が状況を悪化させた」と口を揃える。日本の患者・感染者は約1万8000人だが、実数は5万人近いとみる。検査や相談件数は落ち込み、メディアで「エイズ」の文字を見ることはまれだ。国や自治体の予算は年々削減され、厚生労働省のエイズ関連予算は69億円と1994年度の109億円の6割ほど。東京都でも約3億円と半減している。

 日本では、NHKと共同通信が現地・ウィーンから開会式の模様などを伝え、読売新聞などが新しいエイズ治療薬開発の記事を短く報道するにとどまった。(杉山正隆)

「ジャーナリスト」2010年8月25日付けより転載




・各国から多くの報道関係者が参加し熱心な取材を繰り広げた







芸術の都、ウィーン

2010年8月26日

 ウィーンといえば芸術の都である。旧市街中心部の「リンク」と呼ばれる環状道路の内側には、王宮やシュテファン寺院、国立オペラ座など歴史的建造物が多い。

 国立オペラ座はパリ、ミラノと並ぶヨーロッパ三大オペラ劇場の1つ。5分ほど歩いてウィーンの中心部にそびえ立つのがシュテファン寺院だ。すぐ近くには王宮や新王宮をはじめ、国会議事堂や市庁舎なども、日本人から見ると、どれもが宮殿に見えてしまう華麗な造りだ。

 ウィーンはまた偉人や著名人が多く暮らした街だ。シュテファン教会から東に600mほど行った市立公園にはシューベルト、ブルックナー、ヨハン・シュトラウスの像が立つ。

 すぐ近くにはベートーベン像があり、コンツェルトハウス、楽友協会を過ぎるとブラームス像がある。国立オペラ座の先には、モーツアルト像が立つ。すぐ横は新王宮、王宮だ。

 王宮前の美術史博物館と自然史博物館の間にそびえ立つのがマリア・テレジア像。マリー・アントワネットをはじめ16人の子どもを産んだ。フォルクス庭園にあるエリザべートは南ドイツのバイエルンの貴族の娘。ハプスブルグ家の実質的な最後の皇帝となったフランツ・ヨーゼフ1世に見初められ16歳で王妃に。並外れた美貌に惹かれる人は多く、61歳に暗殺されるまで美にその一生を捧げたという。

 街全体が芸術であり人類の遺産。そう感じた8日間のウィーン滞在だった。



・ウィーンの象徴の1つ、国立オペラ座




・街の中心部にそびえ立つシュテファン寺院




・ウィーン・ミッテ駅から5分ほど歩くとシューベルトに出会える




・ヨハン・シュトラウス像




・ブルックナー像




・ベートーベン像




・ウィーン交響楽団の本拠地、コンツェルトハウス




・ブラームス像




・新王宮をバックにモーツアルト像が立つ




・マリー・アントワネットら16人の子どもを産んだマリア・テレジア像




・フォルクス庭園の奥まったところに座るエリザベートは美貌の王妃として知られる














Harm Reductionって何?

2010年8月25日

 「ハーム・リダクション(Harm Reduction)」を知っているだろうか。「被害軽減策」などと訳され、ある行動が原因となる健康被害について、行動変容などにより予防または軽減させる政策や手法などを言う。

 2万人が参加した国際エイズ会議(AIDS2010)では数多くの発表や活動がなされたが、世界に衝撃を与え始めているのがAIDS2010の公式宣言文書「ウィーン宣言(Vienna Declaration)」だということは前に書いた。ウィーン宣言で実際の政策として採られる手法の1つがハーム・リダクションで、これらについて、もう少し考えてみたい。

 ウィーン宣言は「違法薬物政策に科学的根拠を求めコミュニティの保健と安全状況を改善する」ために国際エイズ学会(IAS)など医学および保健政策分野の有力な3団体が起案した。国際エイズ会議は国連と開催国政府、NGOが共催しているので、公式宣言文書であるウィーン宣言は学会はもちろん、国連やオーストリア政府、NGOが認めた文書である。積極的には反対しない「黙認」が含まれているとしても、この意味は極めて重い。

 現在、麻薬をはじめとする違法薬物に対しては死刑を含め厳罰で臨む国が少なくない。薬物蔓延により犯罪が増えたり、暴力団やマフィアなどに資金が回ることを断つ狙いがある。日本もそうした重い刑罰や制裁を課す国の1つだ。

 ウィーン宣言の内容を見てみよう。「科学的根拠に基づく薬物政策」を世界に要請したものだ。「違法薬物使用者に対し厳罰で臨むのは科学的根拠が無く誤りだ」と政策の見直しを強く求めている。つまり、薬物使用者は「取り締まりの容疑者」でなく、「患者」「被害者」として扱われるべきだ、との考えだ。

 AIDS2010の議長も務めるジュリオ・モンタナIAS会長は、エイズの研究とケアに携わる者の多くが誤った薬物政策の影響に直面していると宣言策定に至った思いを語る。「違法薬物との戦争(War On Drugs)の失政はエイズの流行に拍車を掛け、むしろ暴力や犯罪率の上昇、国や社会全体の不安定化などをもたらしてきた。こうした政策に、薬物使用・供給が減ったとの根拠は何もない。今までの違法薬物政策が根拠に基づいた手法で進められるよう強く求めたい」。

 すでにノーベル賞受賞者をはじめ、数多くの医学者、政治指導者らがすでに署名した。その数は2万近いことも、医学者(や政治家)などとして、もう我慢できない、との思いの強さを表している。

 「薬物政策を根拠に基づくアプローチに改善して、人権を尊重し、守り、確保すべき」とのものだが、繰り返しになるが、その手法の1つがハームリダクションだ。

 海外のリゾートとしてハワイと並び知られているオーストラリア。たいての街ならある公衆トイレや公共施設などに、何故か注射針を捨てる箱や新しい注射針が置いてあったりする。何なのだろう。「違法薬物を使用して欲しくないが、もしどうしても打ちたくなったら、古い注射器で回し打ちせず、新しいものを使用して」。これもハームリダクションの1つだ。

 こういう手法を採ると「違法行為を奨励するようなもの」との批判が出るものだが、「取り締まり」の発想で厳しく対処すると地下に潜ってしまい、かえって回し打ちするようになったり、マフィアなどの資金源になったりする、との考えなのだ。

 「ハームリダクションが有効で、従来の取り締まりに効果が無いことは科学的根拠がある」とモンタナIAS会長は話す。UNAIDS(国連エイズ計画)やWHO(世界保健機関)などもモンタナ会長の発言を支持する。多くの国々で、手法は様々だが、ハームリダクションは取り入れられている。オランダ、英国をはじめ、ヨーロッパ諸国やロシア、ブラジル、中国、マレーシア、イランなどがその代表だ。

 例えば、薬物使用を厳しく戒めるイスラム教国であるマレーシアは2006年にハームリダクションを採用。2年間で薬物使用によるHIV感染は3000人から2000人に減少した。中国でも同じような成果を上げ、感染拡大に歯止めが掛かったという。

 日本国内では、捜査当局を中心に「日本は覚せい剤や麻薬が蔓延していて深刻な状況だ」との危機感は強い。しかし、冷静に考えると、エビデンス(証拠)から見ると取締り的手法は(好意的に見ても)「限界がある」と言わざるを得ない。HIVの感染拡大に歯止めが掛からない日本も、まだ薬物汚染が深刻とまではいえない今こそ、現実的な対応であるハームリダクションについて議論を始める時期なのかもしれない。むろん、「野放しにして良いのか」との議論に組するつもりはない。

 日本では、違法薬物に対しては「非寛容」だが、政治のレベルでは少し動きがある。昨年の衆院選で、ある団体が各政党に薬物政策を尋ね、ハームリダクション政策について、どう考えているか聞いたところ、民主党は「薬物依存・中毒者への治療と自立支援、家族への相談支援を整備すべきだと考えています。省庁横断的な薬物取り締まり体制を強化するとともに、外国の例を参考にしながら実効性のあるアプローチを検討すべきだと考えます」と回答したという。社民党と国民新党は「ハームリダクション政策を検討する必要がある」と前向きで、社民党は「ただし、注射針の供給等の感染予防、代替薬物治療、カウンセリングの態勢等の対策の整備が前提。結果としての健康被害軽減が何よりも重要であり、取り締りの厳格化だけでは限界がある」とした、とのことだ。

 AIDS2010でのウィーン宣言やハームリダクションの国際的な流れは、現実的な対応をせざるを得ないほど薬物汚染やHIVの感染拡大が深刻であると同時に、弱い立場にある人や庶民からの視点を忘れるべきでないとの決意の表れと私は理解している。

 さて、日本はどうなのだろうか。「国・行政や官僚・役人が上にあり、国民は下にある。国民は悪いことをしがちだから取り締まるべきだ」との役人たちのうそぶく声がいつも聞こえている、と言うと、一国民に過ぎない私のひがみなのだろうか。





国際エイズ会議に出席した人々は?

2010年8月24日

 「エイズは関係ない」と考える人が多い日本。実際には4~5万人の感染者がいるとみられるが、国民の間では危機感は乏しい。一方、アジアやアフリカ、欧米では、一部を除き、エイズは重大な関心事の1つだ。友人・知人に感染したり、エイズで亡くなったりする人が現実に出ているためだ。

 国際エイズ会議は、学会や医学的会議の側面は実は小さい。むしろ、どう感染者を支えるかやどう予防啓発するかが主眼になっている。そのため、医師・歯科医師、看護師ら医療関係者や医学者、研究者も参加するのだが、主体となる患者・感染者はもちろん、大学生や高校生、NGOの関係者、弁護士・裁判官、教師、栄養士、社会学者、宗教関係者ら多くの職種が顔を揃える。

 支援の中心的役割を担うのが政治家や財界人、著名人だ。リーダーとしての役割を自身でしっかり理解し、「適切なパフォーマンス」を展開している。国際エイズ会議では、政治指導者の中でも頂点に立つ国家元首か、それに準ずる立場の人が歓迎の挨拶をすることが通例になっている。自らの言葉で、個人として、国家として、どうエイズをめぐるさまざまな問題と向き合うのか、しっかりと語りかける。

 ビル・クリントン元米国大統領はその筆頭だ。連続して国際エイズ会議に出席している。パン・ギムン国連事務総長は前回、メキシコ会議の際に出席した。スリランカのラジャパクサ大統領や、インドネシアのユドヨノ大統領、オーストリアのフィッシャー大統領らも当然、開催国の大統領として開会式で政治指導者としての役割を発揮してきた。

 また、ノルウェーの  王女は同国の代表として参加者らと話を交わす姿が見られ、マイクロソフト社会長のビル・ゲイツ氏もスピーチや記者会見で自分の考えを話し「もっと積極的にエイズ問題に関わろう」との明確なメッセージを出していた。

 映画スターや歌手らアーティストも同様だ。ウィーン会議では日本でもファンの多い英国のアニー・レノックスさんが演説やコンサートを通じ、先進国に国際公約した資金供出を即時実行するよう訴えた。メキシコ会議ではShall we dance? などでおなじみのリチャード・ギアさんがスピーチや記者会見に臨んだ。

 他方、日本はどうか。リーダーたちはエイズに限らず、重要な事項であっても黙殺したり、パフォーマンスをするにしても不適切なものだったりする。

 ICAAP(地域会議=アジア太平洋地域エイズ国際会議)で、皆が驚いたのは「日本の政治指導者は誰も来なかった」ことだ。開催国の政府が「黙殺」したとして衝撃が拡がった。しかも、当時は職務権限などが不明確だった旧「政務官」が日本国代表として自慢話をはじめ、「日本の感染者や支援しているNGO関係者は本当にかわいそう」と声を掛けられる始末だった。

 日本は感染者が増え続けているのに何もせず予算も削る。そうした中で、エイズ予防財団のブースがにぎわい、日本人の発表者とNGO関係者の奮闘振りが目立ったのが唯一の救いだった。菅首相の写真と名前がG8の一員として風船に描かれ、ささやかな批判を浴びるのが何故かむずがゆく、「適切なパフォーマンスは必要」と痛感する国際エイズ会議だった。



・リチャード・ギアさんは熱心にHIVに取り組む俳優の1人だ




・ICAAP「コロンボ会議」の開会式で挨拶するスリランカのラジャパクサ大統領




・国際エイズ会議「メキシコシティ」会議の開会式で挨拶するカルデロン大統領




・ICAAP「バリ会議」の開会式で挨拶するインドネシアのユドヨノ大統領




・マレーシア元大統領の娘、マハティールさんもICAAPなどに積極的に出席する著名人だ






サイドトリップ・ワルシャワ

2010年8月20日

 ワルシャワと言うと、何を思い浮かべるだろうか。ショパン、と言う人も少なくないだろう。今年はショパン生誕200年。また、5年に1度のショパン・コンクールの年でもあり、国際エイズ会議(AIDS2010)「ウィーン会議」の帰路、8時間鉄道に揺られ、ポーランドの首都・ワルシャワに立ち寄った。14時間ほどの短い滞在だった。

 「ピアノの詩人」と称されるフレデリック・フランソワ・ショパンは今から200年前の1810年3月1日(2月22日との説もある)、ワルシャワの西に位置するジェラゾヴァ・ヴォラで生まれる。フランス人の父とポーランド人の母の第2子(長男=つまり姉がいることになる)。いつ生まれたかは謎で、1809年説もある。

 間宮林蔵が樺太探検したのが1808年。ナポレオン1世がロシア遠征を始め、米英戦争が勃発したのが1812年と言うと、少し分かりやすいだろうか。

 ショパンは誕生からほどなくワルシャワに引越し、20歳にしてウィーンに。21歳でパリ、28歳でマヨルカ島から再びパリで暮らしながら、ヨーロッパ各地に滞在したようだ。そして1849年10月17日に39歳の若さで死去するまで241曲を作曲。ほぼその全てがピアノ曲だった。

 ショパンの遺体はパリのペール・ラシェーズ墓地に埋葬されたが、心臓は翌1850年1月に姉ルドヴィカがワルシャワの聖十字架教会に安置したとされる。(米国のペリー提督が浦賀沖に黒船で来航したのが1853年)

 ショパン生誕200年とあって、様々な書籍やCDなどが巷にはあふれている。詳しい話はそれに譲るが、ショパンの心臓が埋葬されている聖十字架教会や、ショパンが少年の頃、奉仕の演奏をした聖アンナ教会を訪れてみた。朝6時と早朝だったが、敬虔なクリスチャンが祈りを捧げていた。おそらく200年前と同じ光景なのだろう。聖十字架教会には本堂の左手前にショパンの碑があった。心臓がその下にある。時空を超えてショパンと同じ場所に来ていることに不思議な喜びのようなものを感じた。

 ワルシャワはショパン以外にも多くの偉人・有名人が足跡を残している。地動説を唱えたミコワイ・コペルニクス(1473-1543)の像や、ノーベル賞科学者・キューリー夫人(1867-1934)博物館なども中心部に点在する。

 ポーランドはまた戦争の傷跡が深く残る国でもある。1830年にはフランス7月革命の影響を受け「ワルシャワ蜂起(11月蜂起)」、1863年には「1月蜂起」があり、鎮圧により多くの人命が奪われた。

 悲惨を極めたのが1939年のナチス・ドイツによるポーランド侵攻だ。その後、市内在住をはじめとするユダヤ人は強制収容所・絶滅収容所に送られ、1944年にはワルシャワ市民が一斉蜂起(ワルシャワ蜂起)したが63日間の激戦の末、鎮圧され数多くの尊い人命と、歴史的建造物のほとんどが失われた。

 「カティンの森事件」追悼70周年式典に向かっていたレフ・カチンスキ前大統領らが今年4月、航空事故死したのを覚えている人もいるだろう。第2次世界大戦中に旧ソ連のグネェズドヴォ近郊の森で多数のポーランド人将校や聖職者らが旧ソ連の内務人民委員部により虐殺された事件の追悼式典に参加する途中の事故だった。私が訪れた7月24日、大統領官邸前には、夫妻の写真や木製の十字架、灯された数多くのロウソクが前大統領らの死を今も悼んでいた。

 慰霊の十字架などは前大統領夫妻ら100人近くを乗せた専用機が墜落した直後、ボーイスカウトらの手で設置された。今も国民的悲劇のシンボルを訪れる人は絶えないが、コモロフスキ新大統領が就任した8月6日より前に移設される予定になっていた。しかし、現地からの報道によると、政治論争が勃発し、移設を群集らが実力で阻止する事態に陥っていると言う。


・聖十字架教会。ショパンの碑の下に彼の心臓が埋葬されている




・大統領官邸前には不慮の事故死を遂げたカチンスキ前大統領夫妻の写真と木製の十字架が今も飾られている




・新世界通りの入り口近くには地動説を唱えたコペルニクスの銅像




・第2次世界大戦末期の1944年8月1日、ドイツ軍に対して市民が一斉に蜂起した「ワルシャワ蜂起」では20万人が亡くなり、多くの歴史的建造物を破壊された(ワルシャワ蜂起記念碑)




・幾多の戦火を乗り越え、往年の街並みが市民の手によって復興された旧王宮周辺(左はジグムント3世の碑)




・15世紀頃築かれたレンガ造りの砦「バルバカン」も旧市街と同様、復興された





コンドームなどHIV予防教育はタブー?

2010年8月19日

 ワクチンなどの根本的治療法が開発されてない現状では、唯一で最大の予防効果が期待できるコンドーム。世界的には小中学校や子どもたち向けにPR活動が活発になされているが、日本では依然、「タブー」だ。

 日本では、中学の教育現場では必要に迫られ、性教育が一部、行われるようになっている。しかし、多くは高校でなされるか、もしくは、事実上しない(子どもたちの心には残らない)現状のようだ。

 国際エイズ会議では「過激」なパフォーマンスが繰り広げられる。コンドームが、受け取れ切れないほど配布され、コンドーム人形が会場内や市内を闊歩するのが通例、高校生らによる自分たちの手でのHIV予防や性・セックスを考える発表なども、ごく当たり前だ。

 日本では「性教育なぞ『寝た子を起こす』有害なもので、得られるものは何も無い」と考える人も少なくない。国際エイズ会議はともかく、外国の実態を知ると仰天するだろう。が、事態はそれほど深刻なのだ。

 「外国はたいへんだ。日本人で良かったのかも」と考える向きもあるだろう。確かに、わが子は可愛く、甘えてくる存在で、性教育やコンドームなんてとんでもない!のかもしれない。

 さて、最近、知り合った20歳代前半の女性。魅力的だが清楚でもある。ようやく社会に一歩を踏み出した初々しい会社員、いわゆるOLさんだ。私がある時、「ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)」の問題にも取り組んでいると話したところ、この女性が「実は私、それに感染してるんです」と告白された。このウイルスは子宮頸がんの原因ウイルスとされ、未成年の女性が性行為すると感染しやすいのが分かっている。HIVと同様、性行為で感染する病気なのだ。注目を集めているので、報道などで知っているという人も多いだろう。

 HPVは、様々な口腔がん、舌がんや喉頭がんなどにも関与していることが分かってきている。歯科にも関係が深いウイルスだ。

 彼女は言う。「私は無知でした。もし、コンドームをきちんと使っていたら、感染しなかったでしょう。HIVは陰性でしたが、私はいずれ子宮頸がんになる可能性が高いのです。自己責任であり、反省はしています。でも、周りは誰も教えてくれなかった。もし、知っていたら、危険な性行為はしなかったと思います」と。

 彼女は有名大学を卒業し、一部上場の大手企業に勤めている。素行不良や非行に走った経験は感じられない。ごくごく普通の「お嬢さん」だ。

 こうした事例は実は、非常に多く、しかも増えている。「最近の若者は乱れている」と言う前に、大人が子どもたちに教えるべきではないか。HIVやHPVなどの医学的事実や、「モラル」はある程度、教え込まないと理解できない。

「生は性」(性は生)とも言う。子どもたちに「お前はママとパパが好きだよ、っていう気持ちが高まって生まれてきたんだよ。お前のこと、パパもママも大好きだよ」ときちんと伝える、そんな契機がHIV予防教育や性教育だ、というと奇麗事なのだろうか。


・教師や保護者による指導のもと、高校生らによる「Youth-Style Method」がポスター発表されるなど、HIV感染予防教育・性教育が諸外国では進む(2009年の「バリ会議」で)





(番外編)東西の接点、ウィーン

2010年8月18日

 国際エイズ会議(AIDS2010)が開催されたオーストリアの首都・ウィーン。オーストリアは地理的に東西ヨーロッパの接点だ。アジア、アフリカにも近く、有史以前から多くの人々が行き来してきた。今回、AIDS2010が開かれたのはエイズ患者が急増する中央アジアやロシアを睨んでのものだった。

 「美人過ぎるスパイ」として大きな話題となったロシア人スパイ、アンナ・チャップマン(28)。彼女を含めロシア人4人と米国人10人が7月、交換されたのがウィーン国際空港だった。冷戦後最大規模のスパイ交換は、両国の大統領らによる政治決断によりスピーディーに行われた。ロシアと米国からの飛行機がウィーン国際空港に相次いで着陸した直後に滑走路近くに横付けされ、14人が素早く交換された直後に、再び飛び立った。

 実はウィーンは世界有数のスパイが多い街として知られる。様々な民族が市内を闊歩し、ドイツ語、英語、ロシア語など多くの言葉や文字が行き交う国際都市だからだ。誰が何をしようと、法律を守り、他人に迷惑を掛けなければそれで良い。そうした包容力のある街なのだ。

 オーストリアはまた、中立国家である。これも東西の接点という地政学的理由もあり、世界第3の「国連都市」であり、IAEA(国際原子力機関)などの国際機関やOPEC(石油輸出国機構)の本部などもウィーンにある。

 スパイたちは大使館の書記官やジャーナリスト、国連職員や国際機関の職員の肩書きで暗躍することが多い。

 むろん、諜報活動が発覚すればスパイたちはただではすまない。国家主権が侵されたことになるからだ。その場合、違法性の程度(=国家主権侵害の程度)が小さければ、国外退去処分となることが多い。特に、外交官特権を持つ大使館書記官や国連職員などの場合は国外退去を要請することになる。


 AIDS2010期間中、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のポスターやハングルで書かれた垂れ幕を何度も見た。芸術展示会をPRするものだった。今年4月に再選されたハインツ・フィッシャー大統領は北朝鮮びいきとして知られる。北朝鮮との国交樹立35年であると同時に、韓国との外交関係は47年になる。北朝鮮、韓国の双方と国交を持ち適度の距離感を保つところも中立国、オーストリアならではだ。

 ウィーン発、のニュースが出る時は「要注意」だ。朝鮮半島情勢がらみや、日本に関係するニュースがウィーンから出たりもする。小さな「ベタ記事」であっても、一通り目を通し、記憶のどこかにとどめたい。


・米ロのスパイ交換の舞台となったウィーン国際空港




・北朝鮮の芸術展示会をPRするポスターがウィーン中心部に貼られた(写真右)





一転、急増!

2010年8月17日

 厚生労働省のエイズ動向委員会は8月13日、今年第2四半期の国内でのHIV感染者・エイズ患者の報告数などを公表した。それによると、今年3月29日から6月27日までの3ヶ月間に報告があった新規エイズ患者は四半期では過去最高となる129人。3ヶ月単位の四半期ベースの報告は様々な要因により変動することが大きいが、前回報告より4割増と大幅に増加したことに、関係者は大きな衝撃を受けている。岩本愛吉委員長は「エイズの症状が出て初めてHIVに感染していることに気付く人が増えている。より検査を受けやすくするなど、発症前のできるだけ早い時期に、検査により感染を発見できるような対策を強化する必要がある」と話す。

 同委員会によると、期間中の新規エイズ患者は129人(男性125人、女性4人)で、前回報告(94人)より35人多く、前年同期(116人)より13人多かった。新規HIV感染者は263人(男性248人、女性15人)で前回より36人多かった。新規エイズ患者と同HIV感染者の合計は392人で過去3位だった。

 昨年の4月以降、HIV検査や相談件数は大幅に減少。「新型インフルエンザ」の流行で市民の関心が「新型インフルエンザ」に集中し、厚生労働省をはじめ、自治体や保健所なども忙殺され、それに歩調を合わせるように新規患者・感染者数も減少していた。

 ただ、今年に入り「新型インフルエンザ」の流行が沈静化し終焉しても、減少傾向が続いたため、「新型インフルエンザ」の流行により減少した、との説明に疑問符が点り始めた矢先の患者・感染者の「急増」だった。

 この点、HIV/エイズへの社会的関心が危機的状況にまで薄まっている反映ではないか、と危惧する見方が強い。先月、オーストリア・ウィーンであった国際エイズ会議(AIDS2010)でも、もっぱら話題になっていたのが、「日本の資金不足や無関心」。政府関係者は顔を見せず、「日本は、資金難から会議への派遣が次回から難しくなる」との声まで上がった。各国がアフリカやアジア諸国への援助をアピールする中で、日本はJICA(独立行政法人国際協力機構)がブースを出さず、関係者もほとんどいなかったことで、外国人参加者からは失望の声が上がった。「日本政府はエイズの国際的な状況はもちろん、自国でも増加していることをもっと認識すべきだ」。

 最大の問題は「政治家の無関心」。AIDS2010では主催国・オーストリアのフィッシャー大統領はじめ、クリントン元米国大統領ら多くの政治リーダーがエイズとの闘いへの意思表示を明確にしたが、日本ではそうしたことはない。メディアの関心も薄れ、国民もエイズに興味を示すことは12月1日の「国際エイズデー」のイベントぐらいだ。

 もう1つ、気になることがある。明確なデータやエビデンスを得るまでには至っていないが、HIVに感染してからエイズと呼ばれる症状が出る期間がどうも短くなってきたようだ、というのだ。従来は8年から10年とされていたが、最近では3年ぐらいとの報告もある。

 出産によるHIVの母子感染が1件報告されたほか、薬物注射による感染も4件あった。

 ウイルスなどの根本的治療法が開発されない現状では、医学の進歩で適切な治療を受ければ永く生きられるようになったといっても、予防と「早期発見、早期治療」しかない。




どうすればHIVに感染する?しない?

2010年8月12日

 通常の生活をしていてHIVに感染することはごく限られる。血液、精液、膣分泌液に濃厚に接触した場合のみだ。まれに母乳からの感染もあるが、蚊に刺されたりキスなどによる感染は心配ない。輸血による感染は現在は、検査で陰性を確認した血液のみを使用しているため安全だ。また、歯石除去などで出血したとしても、HIVの感染力は非常に弱く、十分な消毒もしているので感染することはない。

 同様に、仮に血を素手で触ったとして傷口で触れても、血圧があるため、通常は血流内に入ることはなく、一般的には心配はない。

 実際に問題になるのは、①性行為②注射針の回し打ち③母子感染だ。このうち、②は麻薬の乱用などで注射針を回し打ちしない限り、感染することは無い。③は分娩時にHIVに感染している母親から産児に母体の血液や分泌液などを介して感染する危険性がある。30~50%程度といわれる。また、母乳は避ける必要がある。

 多くの人では、①の無防備な性行為がHIV感染のほぼ100%だ。現状では「コンドームの使用」が唯一で、確実な防止法だ。

 万一、感染の可能性がある場合は、すぐさま最寄りの医院や保健所などに相談すべきだ。100%効果があるとはいえないものの、予防薬投与で感染のリスクを大幅に下げることが可能だ。

 AIDS2010で、女性器に塗布して使用するエイズ予防薬が発表され注目を集めたが、現状では予防効果は50%ほど。研究がさらに進展することが期待されるが、繰り返しになるが、現状では「コンドームの使用」しか確実な防止策はない。


・「無料抱きつかれ屋」登場。ハグしてもHIVは感染しません!とアピールしていた。




・コンドーム人形は子どもたちの人気者?(AIDS2008=メキシコシティで)






困っているのは「歯」

2010年8月11日

 エイズやHIV(エイズ・ウイルス)と聞くと、「歯科とは関係ない」と考えがちのようだ。しかし、エイズは全身に症状が出る疾患であり、歯や口腔が「関係ない」はずもない。実際、今回のAIDS20010で幾度となく聞いたのが「歯で困っている」とのエイズ患者やNGO関係者の切実な声だ。

 歯科治療に限らないが、治療を受けようとして病院や診療所に行っても、「HIVに感染しています」と正直に言うと、「うちではちょっと」と拠点病院などを勧められることが多い。感染者から見ると、きちんと話すとなぜ断られてしまうのか、とがっかりすることが少なくないという。

 むろん、状態が悪い時は全て歯科医院で診るのは難しいかもしれない。しかし、エイズ発症前の状態が良い場合であれば、いわゆる「根の治療」の一般的なものや簡単な歯石除去、消毒などはわざわざ遠くの拠点病院に行くまでもないのではないか。内科などの主治医などと連携すれば十分、どこの歯科医院でも治療できる。

 HIV感染者に対する歯科治療は、むろん全身状態などを考慮する必要はあるが、心配しすぎる必要はない。基本的には、HIVに感染していても、他の患者と同様であって良いのだ。

 さらに、HIVは口腔症状の出やすい病気だ。HIVに感染した直後から半年程度の間、カンジダ症や潰瘍が口腔に出ることが少なくない。「舌や粘膜が荒れて食べ物などがしみる」などの症状が出て歯科医院などに来院し、検査の結果、実はHIVに感染していることが分かるなどの例が多いのだ。CD4値が下がると、カポジ肉腫、壊死性潰瘍性歯肉炎などが出現することが知られている。歯科医師の役割は、エイズの分野でも重要と思うのだ。

 最近、心臓疾患や糖尿病などの病気を抱えている「有病者」が多くなっており、適切に口の中を清潔に保つと、全身状態が改善することが知られるようになってきた。HIV感染も「慢性病」の側面が強く、歯科医師や歯科衛生士が積極的に関わることで、感染者の体調維持などに寄与できる。何より、美味しく食べる・食べれるということが、人生の質の向上の基本だということを思い起こしたい。

 もう1つ忘れてはならないのは、通常の歯科治療でHIVが感染することはないということ。どこの街の歯科医院でも、HIV感染者への積極的な歯科治療や関与が求められている。


・感染者や関係者向けに配布されたマカロニに肉、サラダの簡単な昼食を食べる参加者。




・今日の昼食は何?長粒米(いわゆるタイ米)に豆、肉などのソースの掛かった「ハヤシライス」のようなメニューだった。







国際エイズ会議とは

2010年8月10日

 エイズの症例が1981年、米国・ロサンゼルスで報告された4年後、2300人が参加してアトランタで第1回の国際エイズ会議が開催された。1994年に第10回会議が横浜であり、その後は隔年開かれるようになった。現在では2万人~3万人規模となり、「世界最大の会議」と言われるようになった。薬を飲み適切な治療を受ければ永く生きられるようになったものの、貧富の格差や差別、女性問題などが複雑に絡み合い、今も年間200万人が命を落とす。

 「大戦に匹敵する人類を脅かす病禍」(アナン元国連事務総長)との共通認識があり、国際エイズ会議は国連と開催国政府、そしてNGOの共催だ。開催国の元首や各国首脳が開会式などでスピーチするのが通例になっている。

 1991年からは、地域会議(アジアではICAAP)が隔年で開かれるようになり、2010年は世界会議がオーストリア・ウィーンで、11年にはICAAPが韓国・プサンで、12年には世界会議が米国・ワシントンDCで、などと世界会議と地域会議のどちらかが毎年開催されるようになっている。

 元々は医師や医学者が多く参加し最新の医学的研究が多く発表されてきたが、最近では支援策や政治・行政的取り組み、NGOの活動報告などに重点が置かれつつある。当事者であるエイズ患者/ HIV感染者が主体の会議へと変わってきたためだ。もっとも、最近で医学者側から「もっと国際エイズ会議での発表を増やすべき」「デモが多発するなど驚くことは多いが、患者・感染者と触れ合う貴重な場」との声が聞かれるようになった。

 世界会議では2000~3000人前後のメディアがメディアセンター内に取材拠点を設けるなど、国際的なニュースが連日、国際エイズ会議から発信される。


[国際エイズ会議年表]*はICAAP(アジア地域会議)◎は杉山が現地で取材した会議

1985 アトランタ(米国)
1986 パリ(フランス)
1987 ワシントン(米国)
1988 ストックホルム(スウェーデン
1989 モントリオール(カナダ)
1990 サンフランシスコ(米国) *キャンベラ(オーストラリア)
1991 フィレンツェ(イタリア) 
1992 アムステルダム(オランダ)
1993 ベルリン(ドイツ)    *ニューデリー(インド)
1994 横浜(日本)◎
1995              *チェンマイ(タイ)
1996 バンクーバー(カナダ)◎
1997              *マニラ(フィリピン)
1998 ジュネーブ(スイス)◎
1999              *クアラルンプール(マレーシア)◎
2000 ダーバン(南アフリカ)◎  
2001              *メルボルン(オーストラリア)◎
2002 バルセロナ(スペイン)◎
2003             (*神戸=延期、SARS流行のため)
2004 バンコク(タイ)◎
2005              *神戸(日本)◎
2006 トロント(カナダ)◎
2007              *コロンボ(スリランカ)◎
2008 メキシコシティ(メキシコ)◎
2009              *バリ(インドネシア)◎
2010 ウィーン(オーストリア)◎
2011              *プサン(韓国)
2012 ワシントン(米国)


・AIDS2006「トロント会議」の記者会見に出席し、記者団とやり取りするビル・クリントン元米国大統領




・鐘が鳴るたびに、また1人HIVに感染していると知らせる「エイズベル」(2007年スリランカでの「コロンボ会議」で)




・AIDS2008「メキシコ会議」で、今も次々にエイズ患者が亡くなっている現状に怒りをあらわにするNGOの人々




・エイズ患者の日々の生活がパネルで紹介され、「バリ会議」参加者らは食い入るように見ていた(2009年)







WHO:「CD4」値が350以下で治療開始を推奨

2010年8月9日

 WHO(世界保健機関)が第18回国際エイズ会議(AIDS2010)に合わせて発表した最新推計によると、低・中所得国でHIV延命治療を受けているエイズ患者は約520万人に達しており、09年の1年間に治療を開始したのは120万人になるという。WHO本部の中谷比呂樹HIV/AIDS・結核・マラリア・特定熱帯病局担当事務局長補は「非常に力づけられる成果だ」と話す。

 WHOは、AIDS2010でHIV陽性者の早期治療を呼びかけた。健康な人では血液1ml当たり1000ー1500個であるCD4について、WHOは従来200を切ったらHIV治療をするよう推奨していたが、現在は350以下にするよう呼びかけている。治療により体内のウイルス量が減るので、HIV陽性者からパートナーにウィルスが感染しにくくなる、と説明する。

 この新たなガイドラインにより、HIV治療を始めるべき人は1000万人だったものが1500万人に増えたことになる。UNAIDS(国連エイズ計画)によると、約90億ドルがHIV治療に必要だという。

 一方、この新しいガイドラインに対し、今でも不足している資金が、いっそうきつくなると懸念する声もある。医師・医学者の主張が実態を無視して強すぎる、というのだ。

 この点、UNAIDSは「治療開始が遅れると治療が難しくなり費用が掛かる。早期発見早期治療の観点からも新しいガイドラインは重要だ」と説明する。



・HIV感染者やAIDS患者が一生治療を受け続けなければならないことを表現した作品がAIDS2010会場内に展示された






日本のAIDS患者/HIV感染者は減ったのか?

2010年8月6日

 昨年(2009年)のわが国の新規HIV感染者・エイズ患者は前年比で約1割減の感染者1021人、患者431人の計1452人と厚生労働省のエイズ動向委員会が発表した。ほぼ一貫して増加していた感染に歯止めが掛かったのか、と受け取る向きもあるだろうが、答えは「No」だ。

 その理由の1つは、昨年はいわゆる「新型インフルエンザ」をめぐる一連の“騒動”の煽りで「HIV検査」が減ったことだ。検査数が減れば感染したことに気付く人もその分、減ってしまう。

 しかし、「新型インフルエンザ」が記憶から薄れつつある今年になってもHIV感染者・エイズ患者の報告数は若干、減少傾向のようだ。そうなると、「新型インフルエンザ」騒動のためばかりとは言えない。

 そこで問題となってくるのが、HIV/エイズに関する無関心が日本中を蔓延しているのではないかということだ。

 事実、第18回国際エイズ会議は世界200カ国から2万人が参加し、ウィーン市民らも数多くイベントなどに出席していたし、各国の記者も1300人近くが取材し、現地放送センターは49にもなった一方、日本での報道は極めて限定的だった。

 また、G8などの大国はエイズや感染症に関していかに取り組んでいるか、ブースを出したり、大臣や政府高官がAIDS2010に出席して情報収集に当たったが、日本の政府高官は皆無。現地・在ウィーン日本大使館の一等書記官らが顔を出した程度だった。

 日本国内でも、エイズに関する報道というと、12月1日の「国際エイズデー」などのイベントぐらい。先進国などで唯一目立って増加傾向にあるのは日本だけなのだが、日本では政府にもマスコミにも危機感はまるで感じられない。日本国民の間でもエイズに関して正しい知識や興味を持つ人は明らかに減っているとの印象だ。

 今回、自分自身がHIV感染について気付いている補足率が欧米では70~80%あるのに、日本では30%ぐらいでは、との話を何度も聞いた。HIV感染者やエイズ患者の「報告数」は減っているが、「実数」は増えているのではないか、そんな合理的な疑いを強くした。

 日本では、HIVの感染に気付かず、重い症状が出て病院に駆け込んで、すでにエイズと言われる状態にあることが分かる「いきなりエイズ」が増えている。今後、こうした事例がさらに増え、それと同時にエイズ患者が急増する「嵐の前の静けさ」でなければ良いが、そう思えてならない。

 ウィーンでは政治・経済のリーダーたちが積極的に発言したり活動した。「パフォーマンスにすぎない」との指摘もあるだろうが、それすらしない日本の政治家は何なのだろう。デモ隊などの批判の対象となったG8の中に菅首相の名前があり、日本人参加者からは「せめて菅さんの顔写真と名前があって良かったよ」との声が上がった。

 薬害エイズの時の厚生労働大臣は菅首相だったことを思い出し、この分野でも影の薄い菅首相ら日本のリーダーには猛省を促したい。



・予算が年々、大幅に削減される一方で、患者・感染者の支援に取り組んでいる厚生労働省の外郭団体「エイズ予防財団」のブース。諸外国の関心は高く、アジア、アフリカなどからの参加者らが多数、詰め掛けていた。






米国、韓国、中国がHIV感染者の入国規制を撤廃

2010年8月5日

 米国が昨年10月にHIV陽性者の入国規制を撤廃し、今年(2010年)1月4日から発効したのに続き、韓国が今年1月、さらに中国が今年4月に、規制撤廃を発表した。韓国は来年7月、プサンでアジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP)の開催を前に、UNAIDS(国連エイズ計画)やIAS(国際エイズ学会)などの方針と整合性を図るために入国管理政策の「改善」が急務となっていた。

 中国は上海万博を前に20年以上も指摘されてきた規制撤廃を「ハンセン病患者」とともにHIV陽性者についても入国管理法実施細則の改正により実施した。2007年にすでにHIV感染者の入国規制は撤廃する意向を表明していた。

 オーストラリアの作家、ロバート・デセイさんが今年、上海での国際文学祭に参加するため、中国のビザを申請する際、自身がHIV感染者と明記したところ、ビザの発給を拒否されたという。デセイさんが「中国政府からツバをはきかけられた気持ちだ」と不満を表明し、中国衛生省の担当者は「私たちのHIVへの理解が不足していた。入国拒否などが必要がなく、入国禁止条項の削除を検討している」と中国・新華社通信に明かしたという。中国政府として、エイズ問題に取り組んでいる姿勢を示すためにも、世界が注目する上海万博の前に規制撤廃を決断したものと受け止められている。

 米国、中国はHIV感染者などへの「差別的入国規制がある国」との汚名は返上できた、ともいえるが、韓国については疑問符が付いている。「実際には、入国規制は従来とほとんど変わってない」というのだ。以前、米国などから「非関税障壁など見えない壁がある」と痛烈な批判を受けたように、この問題で、韓国が国際社会から差別改善を強く求められている。

 さて、日本ではどうか。日本でもちょうど今の韓国同様、運用面での「差別」が指摘されていた。1994年に横浜で第10回国際エイズ会議が開かれる直前に、「差別的な運用があるのなら日本開催は出来ない」とWHO(世界保健機関)やIAS(国際エイズ学会)などから強い圧力を受け実質的に入国規制を廃止した。しかし、形骸化されたとはいえ差別的な条文は残っていたが、エイズ予防法が廃止され新たな感染症法が制定される祭にようやく消えたのだという。

 今もHIV感染者などへの何らかな入国規制を採る国は数多く残っている。こうした面での「差別」は依然、明らかに現存しているのだ。



・米国政府のHIV/AIDS政策を紹介するブースに乱入し、まだまだ手ぬるいと怒りの声を上げるデモ隊の人々。





・「ブッシュとオバマ、どっちが良い?」。エイズ政策の後退が大きな批判の対象だったブッシュ前大統領だったが、オバマ現大統領も「口先だけで何も変わってない」との根強い不満がある。







女性の地位や発言力の弱さがHIV感染を拡大させる大きな要因

2010年8月4日


 日本では「ゲイ」の病気ととらえられがちなエイズだが、世界の推定HIV感染者3340万人のうち、ほぼ半数の1570万人が女性とみられている。女性の割合は世界の多くの地域で上昇している。サハラ砂漠以南のアフリカでは6割を女性が占め、女児を含む女性へのエイズ対策は不十分なのが実態。日本でも新規エイズ患者の3割強が女性だ。

 UNAIDS(国連エイズ計画)は、英国の著名な女性アーティストで、HIVへの支援活動を積極的に展開しているアニー・レノックスさんとともに、女性、女児、ジェンダー(性)の平等とHIVに関する各国の取り組み促進のための行動計画(2010ー2014)を今年3月発表した。女性・女児のHIV感染が拡大する要因であるジェンダーの不平等や人権侵害の問題として取りまとめられた。

 行動計画では、「HIVは世界の出産適齢期15歳~49歳の女性の最も高い死因で、世界中の女性の約7割が暴力を受けている。HIVへの支援などはあっても、女性・女児が直面する現実には対応できていない」と指摘。

 そのうえで、HIVに関し女性や女児が必要とする情報をまとめ、女性の暴力対策をHIV予防、治療、ケア、支援プログラムと結びつけ、各国政府の「約束」を明確にするために女性グループや女性陽性者のネットワークを支援するなどの具体的な行動を打ち出している。

 AIDS2010でも、女性・女児の地位向上に関する発表や企画が少なくなかった。UNAIDSのミシェル・シデベ事務局長は「女性に対する暴力は受け入れがたく我慢すべきものではない」と強調する。「女性の尊厳を失うことは国連の場などで採択されたミレニアム開発目標の達成に向けた人類の力を半分、失うことに等しい。女性や女児は犠牲者ではなく、社会の力をもたらす大きな力なのだ」と力説する。

 アニー・レノックスさんは変化をもたらすには広範な運動が必要、と話す。「行動計画は多くの女性や女児が直面している現実を直視し、不公平の存在こそがHIV感染の大きなリスクになっていることを理解する必要がある」。


・アジア・アフリカを中心に今も残る男尊女卑や男性優位の社会を変革しようと呼びかける英国の女性歌手、アニー・レノックスさん。




・女性支援の一環として女性用コンドームの普及を訴える参加者たち。




・女性をめぐる様々な問題を考える市民団体のブースでは、女性用下着を干す設定の下、多くの女性に加え男性の姿も。







「ウィーン宣言」(Vienna Declaration)の“衝撃”

2010年8月2日

 2万人の感染者、医学者、NGO関係者、政治指導者らに加え多くの市民も参加した国際エイズ会議(AIDS2010)では数多くの発表や活動がなされたが、その中でも静かだが大きな衝撃を与え始めたのが「ウィーン宣言」だ。英語ではVienna Declaration。(Wien Declarationともいう)

 ウィーン宣言は、今回の第18回国際エイズ会議(AIDS2010)の公式宣言文書であり、科学的根拠に基づく薬物政策を世界に要請したものだ。草案を作成したのは国際エイズ学会(IAS)など医学および保健政策分野の有力な3団体が違法薬物政策に科学的根拠を求めコミュニティの保健と安全状況を改善するよう、強く求めている。

 HIVの発見者でノーベル医学生理学賞受賞者のフランソワーズ・バレンシヌシ博士(IAS理事)ら数多くの医学者、医師、歯科医師がすでに署名し、署名活動を拡げている。

 AIDS2010の議長も務めるジュリオ・モンタナIAS会長は次のように説明する。エイズの研究とケアに携わる者の多くが誤った薬物政策の影響に直面している。こうした失政はエイズの流行に拍車を掛け、暴力や犯罪率の上昇、国全体の不安定化などをもたらしてきた。こうした政策に、薬物使用・供給が減ったとの根拠は何もないのだ。医学者として、私たちは今までの違法薬物政策が根拠に基づいた手法で進められるように声を上げることとした。薬物常用は医学的に対応すべきなのであり、犯罪ではないというところから出発すべきなのだ。

 ウィーン宣言は従来の「違法薬物との戦争」(War On Drugs)の手法がもたらした「被害」をこう指摘する。違法薬物使用者を犯罪者として扱うことがHIVの流行に拍車を掛けている。保健の面でも社会的にも非常に悪い結果をもたらしている。全体的な政策の見直しが必要だ。薬物政策を根拠に基づくアプローチに改善することが人権を尊重し、守り、確保すべきなのだ。これは莫大な資金を最も必要とする人に振り向けることを可能にする。その手法は、根拠に基づく予防、規制、治療、被害軽減策(Harm Reduction=ある行動が原因となる健康被害について、行動変容などにより予防または軽減させる政策や手法)などだ。

 科学的薬物政策国際センターの創設者でカナダのブリティッシュ・コロンビア大学医学部のエヴァン・ウッド准教授は「違法薬物政策に対する従来の取締り的手法は巨額の公的資金と人材を無意味に強制的に注ぎ込んでいるがために効果が無いのだ」と話す。「違法薬物との戦争が失敗だったことをはっきり認め、イデオロギーでなく根拠に基づいて、社会の保健と安全を実際に守ることの出来る政策に改めるべきだ」と主張する。

 ウィーン宣言は各国政府や国連などの国際機関に対し、次のようなステップを踏み出すよう求めている。

・現行の違法薬物政策の有効性について透明性の高い検証を行う

・違法薬物が個人と社会にもたらす被害について科学的根拠に基づく公衆衛生政策を実施・検証する

・薬物使用を犯罪としか見ないことをやめ、科学的根拠に基づいた薬物依存治療の機会を増やし、人権宣言に抵触し効果の無い強制薬物治療施設を廃止する

・国連機関のWHO、UNDOC、UNAIDSの目標設定指針に記述されているHIV介入策の実施を明確に支持し、必要な資金供給を増やす

・影響を受ける当事者やグループ、コミュニティのメンバーが意味のある形で参加することを保障する

 また、パン・ギムン国連事務総長に対しては、国連麻薬統制委員会を含む国連機関が一貫性を持って薬物使用の犯罪化を緩和し、根拠に基づく薬物管理を行うよう求めている。

 IASのモンタナ会長は「科学根拠に基づいた薬物政策が実施されても、薬物使用や薬物注射によって発生する全ての弊害が一掃されるわけではないだろう。しかし、根拠に基づく方法へと薬物政策を見直すことで、人権を尊重・擁護することになり、従来の政策が生み出す弊害を大幅に減らすことが出来るだろう。予防、規制、治療、被害軽減策など、いま最も必要な対策分野への財源の再配分を促すことになる」と強調する。

 AIDS2010以降もウィーン宣言の署名は増え続け、7月末までに1万5000ほどにもなった。グルジアの厚生労働大臣や国会副議長らが署名した。

 一方、麻薬を持っているだけで死刑になるなど厳罰に処す国は少なくない。日本も重罰を課す国の1つだ。暴力団の資金源を断つなどの側面もあるが、違法薬物使用者に「被害者」や「患者」の側面があるのも事実であり、ウィーン宣言が日本に与える影響も決して小さくない。



・「ウィーン宣言」署名に臨むグルジアのファーストレディ、サンドラ・エリザベス・ロエロフスさんらグルジアの一行。




・ウィーン宣言の文書。






取材した各国メディアは1276人

2010年7月30日

 200カ国から参加者・ボランティア2万人が参加した第18回国際エイズ会議(AIDS2010)には、各国の記者たち1276人が取材に当たった。英国BBCや米国CNNなどTV各社が設置したブロードキャスト・センターは49にもなり、世界各国では大きなニュースとして報道された。

 今回の「ウィーン会議」で目立ったのは、地元・ヨーロッパと、地理的に近いアフリカ、そして、中国のメディアだった。「エイズは今も人類を脅かせ続ける病禍」という共通認識が各国メディアにはある。

 一方、感染者が先進国で唯一、明らかに増え続けている日本のマスコミは、NHKと共同通信が現地・ウィーンで取材し開会式の模様などを伝えたが、情報量は各国メディアとは比較にならない状況。また、読売新聞などはワシントン発などで新しいエイズ治療薬開発のニュースを短く伝えるにとどまった。


・今回、大きなニュースとなった「女性用HIV予防薬」の開発チームの記者会見後、取材する記者たち。




・研究者らに取材する中国のTVメディアのクルー。




・ノルウェーのメッテ・マリット王女を取材するヨーロッパのTVクルー。




・1276人の各国メディアが連日、ニュースを発信したメディアセンター。




・英国BBCや米国CNNなどのTV各社の報道拠点である「放送センター」は49にも。





200カ国から2万人が参加し閉幕

2010年7月25日

 7月18日からオーストリア、ウィーンで開かれていたAIDS2010(国際エイズ会議「ウィーン会議」)が23日、閉幕した。参加者は197カ国から19300人(22日分までの速報)。登録なしに市民が参加できる「グローバル・ビレッジ」の参加者や、関連行事の参加者を加えると、ゆうに3万人を超す人々が集まったとみられる。また、発表された演題は1万を超えた。

 23日にあった最終記者会見では、組織委員会の関係者から「これほど巨大な会議は他に例がなく運営に多少の混乱はあったが、まずまずの成功だった。2年後の米国、ワシントンDCでの開催までに、資金をいかに集めるかなど解決すべき問題は多く、ウィーン会議の成果と反省に立っていっそう奮起したい」との意気込みが語られた。

 閉会式は23日夕刻(日本時間24日未明)に開かれ、参加者たちは2年後の国際エイズ会議「ワシントンDC会議」での再会と、エイズ問題への取り組み強化を約束しあっていた。(ウィーンで 杉山正隆)


・最終記者会見で話す組織委員会のメンバーたち。




・閉会式を前に、「グローバル・ビレッジ」では参加者に市民も加わり、会議成功を喜んでダンスする光景も。





世界では3340万人、日本では推定で5万人にも

2010年7月25日

 昨年末現在、HIV(エイズ・ウイルス)感染者は世界で3340万人と推定されている。2000年と比べると20%増加しており、1990年の約3倍となっている。新規感染者が年間300万人弱に上り、エイズ関連疾病で200万人が亡くなる一方、世界的なHIV感染のピークは96年で、新たな感染者はピーク時より30%減少している。

 これは抗HIV治療の効果が反映されたものといえる。低・中所得国で抗HIV治療を受けているのは520万人。国連エイズ計画(UNAIDS)などによると、5年間で10倍の感染者が治療を受けられるようになったという。

 エイズは世界保健における最優先の解決すべき課題であることは変わりなく、流行はさらに拡大を続けている。国や地域により、また、その中でも地域差が大きく、また弱い立場の人、これまで「ゲイ」の人たちが中心だったが、特に女性やこどもたちの間で深刻化を増している。また、注射器の回しうちによる感染が諸外国では多く、こうした問題をどう解決していくかが大きな問題だ。

 HIVは、エイズに関する啓発活動と、早期発見・早期治療が極めて有効であり、HIV対策は成功しているとの科学的根拠(エビデンス)が確立されている。

 日本では患者・感染者は1万5000人ほど。しかし、これは厚生労働省の発表した報告者数。日本では感染の事実を知らない人が多く、補足率は30%ほどとみられている。70~80ほどの欧米と比べて極めて高く、感染者の実数は5万人にも上ると推定される。

 「経済大国」日本ではHIV対策予算が年々削られるなど、エイズを取り巻く環境は厳しさを増している。地方自治体でも、感染症対策の中での統合が進行し、もともと少なかったエイズ関連予算はさらに削減されている。患者・感染者は先進国の中で唯一、拡大を続けている一方で、社会的関心は薄れ、マスコミも報道することは少ない。そうしたことから、検査を受ける人はさらに減少し、若者や中高年のの感染拡大と行政などの対応の遅れも目立つ。

 社会的弱者に経済的負担を強いる社会保障制度の空洞化が拡がり、拠点病院などの整備は確立しつつあるが、病院・診療所での診療の拒否の問題も相変わらずだ。感染に気付かず、病状が深刻化して病院に駆け込む「いきなりエイズ」が日本では急増している。

 雇用制度の確立の動きはあるが、感染者の就職困難や解雇の事例が多く報告され、感染者や外国人、セックスワーカー(性風俗労働者)での差別や偏見は根深い。若者やMSM(男性と性行為をする男性)の間での違法・脱法ドラッグの広がりにどう対応していくかも、今後取り組まなければならない残された課題だ。

 また、薬害の恒久対策や補償問題、今後こうした悲劇を繰り返さないために、厚生労働行政への強力な監視も重要だ。(ウィーンで 杉山正隆)



・市民が自由に参加できる「グローバル・ビレッジ」では子連れで参加する市民の姿も。




・JHCのメンバーは慣れない食事や環境の中で6日間のAIDS2010を走り続けた。





日本は先進12か国中9位の「落第点」

2010年7月25日

 エイズや結核、マラリアの対策に掛かる費用を世界各国で負担する国際的な約束のもとに結成された「世界エイズ・結核・マラリア基金」(Global Fund)。その関係者らがAIDS2010で先進各国の実際の費用負担などの貢献度をAからEの5段階などで評価し公表した。

 それによると、最も熱心に公約を守り貢献しているのはオランダとロシアでAと評価された。続いて、デンマークとスペインがB、英国とドイツがC+、米国とカナダはCとの評価だった。日本はオーストラリアとともにD評価で先進12カ国中9位の「落第点」。イタリアはE-、AIDS2010開催国のオーストリアは「論外」のF評価だった。

  •  関係者によると、日本は2008年から10年までで6億2500万ドルを拠出。11年から13年まででは18億3500万ドルを要請されている。「日本が今後拠出を増やしてくれる期待を込めて、少し甘めのD評価にとどめた。日本には期待が大きいことを、日本政府や国民の皆さんに分かっていただきたい。こうした取り組みは粘り強く続ける必要があり、巨額な資金が必要なのだ」と強調する。( ウィーンで 杉山正隆 )




・先進12カ国の「成績表」を前に、記者会見するGlobal Fundの関係者たち。




・巨額な資金提供をしている日本だが、さらなる援助を期待される日本は「落第点」のD評価にとどまった。





日本からは100人近い研究者、NGO関係者が参加

2010年7月25日

 国際エイズ会議(AIDS2010)には日本から100人近い研究者、NGO関係者が参加した。厚生労働省の外郭団体「エイズ予防財団」は10人を派遣し、うち9人が演題発表した。ここでも国の予算削減の影響が大きく、派遣関連予算は昨年のバリでのアジア地域会議(アジア太平町地域エイズ国際が意義=ICAAP「バリ会議」)の600万円から250万円へと5割超削減された。関係者は「行政仕分けなどの圧力が今まで以上に高まると予想され、今後、派遣できなく事態もあり得る」と危機感を強める。

 医学系はもとより、東京都新宿区の看護系大学である聖母大学から10人が派遣されるなど看護や栄養学などの研究者が数十万円の自腹を切って参加したのが目立った会議だった。エイズの問題は世界でも、そして日本でも深刻化しており、「何とかしなければ」との危機感が強いからだ。

 NGO(非政府組織)のJHC(HIVと人権・情報センター)からは4人が参加した。ブースこそ出さなかったものの、日本から唯一ブースを設置した「エイズ予防財団」に協力し、日本の活動状況を参加者に説明したり、各国での状況などの情報収集に積極的に動いていた。

 JHCの参加者、静岡県藤枝市の栄養士、関野愛さんは「初めての参加だったが、各国で熱心に活動しているのを見て圧倒された。エイズは慢性病の側面もあるので、栄養や食事指導などで私たちができることがまだまだあると痛感した」と話していた。また、他の参加者は「経済大国とされる日本で資金難が目立ち、派遣事業の先行きが怪しくなっているのは情けない。必要な資金はしっかり投入しないと、問題は深刻化するだけで解決は遠のく」と強調した。(ウィーンで 杉山正隆)



・エイズ予防財団のブースで日本の状況を各国参加者に説明するJHCのメンバーたち




・各国参加者たちでにぎわうエイズ予防財団のブース。アジア、アフリカから熱い視線が向けられている。





多くの日本人研究者たちが発表

2010年7月23日

 7月18日からウィーンで始まった国際エイズ会議(AIDS2010)は、現地時間23日夜(日本時間24日未明)閉幕する。「ウィーン会議」では80人近い日本人が参加したとみられている。

 今まで紹介した他にも、次のような研究者・関係者が演題発表や様々な企画に参加していた。

 厚生労働省エイズ動向委員長を務める東京大学医科学研究所の岩本愛吉教授、同研究所の細谷紀彰研究員、立川愛助教、宮崎菜穂子薬剤師。京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科の高折晃史教授、東京医科大学臨床検査医学講座の鈴木隆史講師、国立病院機構機構名古屋医療センターエイズ治療開発センターの杉浦亙部長・センター長。鹿児島大学副学長で大学院医歯学総合研究科/医学部の馬場昌範教授、同大抗ウイルス化学療法研究分野の岡本実佳講師。山梨学院大学経営情報学部の仲尾唯治教授、中国科学院生物物理研究所日中連携研究室の松田善衛・客員研究員、ユニセフ・ミャンマー事務所の安田正専門員、ケニヤ厚生省の竹中優子チーフアドバイザー。アフリカ日本協議会・エイズ&ソサエティ研究会議の小川亜紀・国際コーディネーター、HIV/AIDS情報ラウンジ「ふぉー・てぃー」愛川修平ピアスタッフ。

 また、ヤンセン・ファーマの栗村尚子マネジャー、ロシュ・ダイアグノスティックスの横溝勉氏も研究者らと交流を深めていた。







日本でのHIV陽性者の生活・社会参加についての調査報告

2010年7月23日

 日本でHIV(エイズ・ウイルス)感染者を支援するNGO(非政府組織)の1つ、「ぷれいす東京」のメンバーら3人がAIDS2010(国際エイズ会議「ウィーン会議」)で日本でのHIV陽性者の生活・社会参加についての調査報告を行った。3つの演題に分けてポスター発表した。HIV陽性者が病気と闘いながら、日本では病気を家族や職場にも明かせず苦しんでいる実態があらためて浮き彫りになった。

 調査は、日本国内のエイズ治療・研究開発センター、ブロック拠点病院、中核拠点病院の59病院に依頼状を郵送。九州医療センターなど33病院から協力の承諾を得て、外来受診時に医療者がHIV陽性者1813人に無記名の質問用紙を配布し、HIV陽性者自身が郵送する形で回収した。回収数は1203通。回収率は66.4%だった。調査票が日本語だったため、外国籍の回答は1.3%にとどまった。

 演題は、「ぷれいす東京」の生島嗣さんと大槻知子さん、埼玉県立大学の若林チヒロさんが発表した。回答者の94.3%は男性で、男性は同性間、女性は異性間接触による陽性者がそれぞれ4分の3を占めた。平均年齢は男女とも42.2歳で最年少は18歳、最高齢は77歳。

 世帯や家計をみると、1人暮らしが40.4%と最も多く、次いで父母とが27.9%、夫や妻とが16.7%、パートナー・恋人とが12.7%、子とが10.5%、兄弟とが1.9%、祖父母とが1.6%などだった。また、同居パートナーがいる人の92.1%がHIV陽性を知らせていたが、同居の夫や妻には84.2%、同居の親には58.0%、同居の兄弟には52.6%、同居の子には19.4%しかHIV陽性せあることを知らせてなかった。若林さんは「家庭ですらなかなか感染の事実を話せず、大きなストレスになっているようだ」と分析する。

 世帯の家計を支えている収入源は、自分の就労収入が72.7%と最も高く、次いで同居者の就労収入が28.8%、その他の年金や恩給が10.9%、預貯金の取り崩しが9.9%など。自分や同居者の収入以外に年金などの社会保障制度と組み合わせて家計を維持していることがうかがえる。

 HIV陽性が分かった直後の離職は42.2%が経験しており、通院のため、やむなく離職せざるを得なくなったケースや、体力的な問題、仕事より健康や生活を重視するなど、健康関連の理由が多く挙げられた。

 職場でのHIV陽性の開示は上司が11.9%と最も高く、次に役員などの管理者11.5%、同僚や部下が8.4%、人事担当者が6.8%、会社の産業医などが4.3%などだった。「勤務先の誰かに病名を開示している」のは23.2%、開示していないのは66.9%で、生島さんは「英国では4割が勤務先で病名を開示しているとの発表がAIDS2010で発表された。しかし、日本では、この人なら大丈夫かな、と逡巡しながら開示しているようだ」と話す。


・他の会議参加者の質問に答え調査の詳細を話す埼玉県立大学保健医療福祉学部の若林チヒロさん(中央)




・日本でのHIV陽性者の生活・社会参加について解説する「ぷれいす東京」の生島嗣さん(左から2人目)






 「権利を今こそここで!今すぐに!」

2010年7月22日

 AIDS2010(国際エイズ会議「ウィーン会議」)の会議テーマは「Rights Here, Right now」(権利を今こそここで、今すぐに)。

 組織委員会は次のように説明する。HIV(エイズ・ウイルス)の流行に立ち向かう前提として、人権の擁護や尊重こそが最重要。HIV感染の流行に大きな影響を受けている集団の尊厳と自己決定の権利、保健および生命に関わる予防、治療などへ平等にアクセスできる権利、そしてイデオロギーでなく科学的根拠に基づいた介入策を求める権利などは、すべて対策を実行するために緊急に必要である。

 また、今回なぜオーストリアのウィーンが開催地に選ばれたのか。薬物中毒により、急速にHIVの流行が拡大した東欧や中央アジア諸国に接していることも理由に挙げられる。今年2010年は国連特別総会などで世界の指導者たちが約束したHIV予防や治療、ケア、支援の普遍的他アクセスの実現の締め切りの年であり、世界におけるHIVの流行に関して極めて重要な時期に会議が開かれることも強調している。

 「権利を今こそここで!今すぐに!」。「Rights Here, Right Now」は日本の菅首相を含む先進国のリーダーなどの指導力と説明責任、そして何よりも「行動」を求めている。


・発表に乱入し「黙れ!」「フランスは一体どこにいるんだ」と抗議の声を上げる市民団体「ACTUP」のメンバーたち。




・「約束を破ることは許されない」と抗議活動する参加者たち。


・開会式典の壇上に上がり怒りの声を上げる参加者たち。




・EUのブースに詰めかけ、担当者に「もっとしっかり真剣に取り組め」と詰め寄る市民団体のメンバーたち。





日本人研究者の発表続く

2010年7月22日

 国際エイズ会議(AIDS2010)は発表演題が1万をゆうに超える巨大な学会でもある。支援策やNGO(非政府組織)の活動報告などが多いのは事実だが、医学的な発表も少なくない。今回の会議でも、日本の大学や研究機関などの研究者の発表が目に付いた。

 東京都立駒込病院感染症科の柳澤如樹医師は日本人のHIV感染者623人を対象に、高齢や高血圧、糖尿病、中性脂肪、CD4値、タンパク尿などの危険因子を点数化して分析した。その結果、高齢が特に危険因子として問題となり、他の因子も慢性腎臓病などに悪影響を及ぼしていることが分かった。柳澤医師は「高齢に加え、高血圧や糖尿病なども累積してHIV感染者には打撃となる。これらの因子に留意して治療などに当たる必要がある」と話した。諸外国では多くの人種が生活しており人種が混在した研究になりがちだが、今回の研究では日本人という1人種のみを対象としており、今後の研究が期待される。

 東京医科歯科大学大学院ウイルス制御学分野の井戸栄治・特任教授はHIV(エイズ・ウイルス)のタイプについて、アフリカの民主コンゴ共和国の2つの都市と、近接するルワンダ、ブルンジのタイプとを比較し考察した。ルワンダではタイプAが多い一方、ブルンジはタイプCが多い。国境を接するコンゴでは2つの都市でタイプAが50%前後と共通していたが、タイプCが18%ほどある都市と、1%ほどの都市に分かれるなど、大きな差があった。HIVの分化の仕組みを解明する手掛かりになる研究として注目を集めた。

( ウィーンで 杉山正隆 )



・高齢や高血圧などの危険因子がHIV感染者に及ぼす悪影響が大きいことを発表する東京都立駒込病院の柳澤如樹医師(中央)。




・コンゴ民主共和国での研究成果を発表する東京医科歯科大学ウイルス制御学分野の井戸栄治・特任教授(右)。





ウィーン中心部で1万人近い市民らが行進
エイズ対策強化を訴え オバマ米大統領の異父姉も

2010年7月21日

 数千人の市民らが7月20日夜(日本時間21日未明)、ウィーンの中心部を行進し、HIV感染者らへの人権の尊重と、さらなる取り組み強化を訴えた。「エイズ対策強化を」「約束を守ろう」「資金提供を今すぐ」などと書かれたTシャツを着るなど、参加者それぞれが個性的なパフォーマンスを展開。国際エイズ会議(AIDS2010)参加者に市民が加わり1万人近くにまで膨れ上がった。中には、子連れで参加する家族もあり、「子どもの人権も重要だ」と書いたプラカードを持つ小学生の姿も。サッカーのW杯でお馴染みになった「ブブセラ」や笛、太鼓を打ち鳴らしながら、ウィーンの目抜き通りであるリンク(環状道路)をウィーン大学から市庁舎、国会議事堂を通り王宮まで約1時間パレードした。

 行進には、国際エイズ学会(IAS)のジュリオ・モンタナ会長や国連エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長、「世界エイズ・結核・マラリア基金」(Global Fund)のミシェル・カザチキン会長らが先陣を切って参加した。バラク・オバマ米国大統領の異父姉でケニアでHIV/エイズ問題に取り組んでいるアウマ・オバマさんも行動に参加した。

 王宮前広場で開かれたラリーとパフォーマンスには、歌手でエイズ問題にも取り組むアニー・レノックスさんがエイズ禍が急速に広がっている東ヨーロッパの歌も披露し、「あなたはどこにいるの?人々が苦しんでいるのに無視していいの?エイズにもっと関心を持ちましょうよ。そして、先進国などは国際的に約束した資金を実際に拠出して下さい!」と訴え、拍手喝采を浴びた。そして、エイズで亡くなった数千万人もの犠牲者のために1分間の黙祷をした。

( ウィーンで 杉山正隆 )


・ウィーンの目抜き通りを行進するAIDS2010参加者たち(前列中央がIASのジュリオ・モンタナ会長)。




・「子どもの人権も大事だよ」のプラカードを持つ小学生の姿も。




・正面にエイズ問題に取り組む姿勢を示す「レッドリボン」が掲げられた国会議事堂前をパレードする参加者たち。



国際エイズ会議(AIDS2010) 注目される発表が相次ぐ

2010年7月21日

 ウィーンで開催されている「国際エイズ会議」(AIDS2010)では様々な研究成果が発表されている。中でも特に注目を集めているのが、女性の感染防止に効果がある「ゼリー薬」開発の発表だ。当地で7月19日に発表されると同時に米科学誌「サイエンス」電子版に掲載された。

 研究チームは、南アフリカのダーバンなどに住む18~40歳の女性889人を対象に臨床試験を実施。エイズ治療薬の抗レトロウイルス剤「テノフォビル」入りのゼリー薬を性交前と性交後12時間以内に女性器に塗る方法で実施した。

 その結果、ゼリー薬を塗った人は偽薬(プラシーボ)を使用した人に比べて感染のリスクが39%、定期的に使用した人は54%低下した。性器ヘルペスの感染リスクも51%低下したという。

 これまでHIV感染を防ぐにはコンドームが唯一で最適な手段だったが、今回のゼリー薬の開発で、選択肢が増えることになると期待されている。

 一方、ポスターセッションを中心に日本人研究者らの発表も相次いだ。熊本大学エイズ学研究センター・予防開発分野の岡田誠治教授は脳リンパ腫の国内での23症例について研究した成果を発表。岡田教授は「エイズ治療をしっかりやれば脳リンパ腫はほとんど出現しない。日本ではHIVに感染しているのに気がつかない人が多いので、早期発見早期治療がエイズでも重要だ」と話す。放射線療法より、化学療法が有効と強調する。

 また、看護師の河野小夜子さんは中央アフリカ共和国でインタビューと描画によりエイズ孤児たちの喪失体験を調査した結果などを発表した。孤児たちは「悲しい」「不幸」「悔しい」「苦しい」「抑圧」の5つで喪失体験を表出していたという。

( ウィーンで 杉山正隆 )



・ 参加者の質問に答える看護師の河野小夜子さん。




・ 熊本大学の岡田誠治教授もポスター発表した。




・ 記者会見に臨む抗レトロウイルス入りのゼリー薬を
  開発した研究チーム。




・抗レトロウィルス入りゼリー薬



[速報]国際エイズ会議、始まる いっそうの資金援助を求める声

2010年7月20日

 今も世界中でさまざまな悲劇を生み出しているエイズについて、感染者や医療関係者、政治・経済の指導者、学生らが解決方法を探る「国際エイズ会議」が7月18日、オーストリアのウィーンで始まった。23日までの日程で、世界190カ国から2万人あまりが参加する見込み。

 18日夜行われた開会式で、国際エイズ学会のジュリオ・モンタナ会長は「ギリシャなどへの支援はすぐに打ち出すのに、国連などで約束したエイズ支援を各国は破り続けている。私たちの財布には金はない」と強調。国連エイズ計画(UNAIDS)のミッシェル・シディベ事務局長は「経済危機もあり各国が厳しい状況にあることは分かるが、それを名目にしてエイズ対策の支援を減らすことは許されない」述べ、各国にいっそうの資金援助や対策強化を訴えた。

 開会式の冒頭、「一刻も早い支援を!」「エイズ対策に資金を」「先進国は約束を守れ」などのプラカードを掲げた100人を超すデモ隊が一時、開会式典の壇上を占領したため、式の進行が遅れるハプニングがあった。

 実質的な会議初日の19日には、ビル・クリントン元アメリカ大統領のキーノート・スピーチや、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長の特別講演などがあった。

 UNAIDSによると、2008年末では世界のエイズウィルス感染者・患者は約3340万人にのぼり、1年間に約200万人がエイズに関連した病気で死亡。貧困などで十分な治療を受けられない人は1000万人にもなる。1兆円も資金が不足しているとの分析もある。

( ウィーンで、杉山正隆 )




・ 開会式典の壇上に上がり「一刻も早い資金拠出を」各国に訴える
 デモ隊のメンバーたち




・ 開会式で国を挙げてエイズへの取り組みを約束する
 オーストリアのハインツ・フィッシャー大統領




・ キーノート・スピーチするビル・クリントン元アメリカ大統領




・ 特別講演するマイクロソフト社のビル・ゲイツ会長




・ 会場内に掲げられた大きなバルーンにはG8の大統領らに
 約束どおりの資金拠出を訴える文言が。管首相の顔と名前もある。




生存権とは何か考え直すべきだ


 生活保護の老齢加算の廃止の是非が問われた裁判で福岡高裁は6月14日、廃止は正当な理由の無い不利益変更で「社会通念に照らし著しく妥当性を欠き裁量権の逸脱、濫用に当たる」と判断した
▼古賀寛裁判長は、生活保護基準の改定は「一定程度、厚生労働大臣の裁量にゆだねられている」としたが、専門委員会が①最低生活水準を維持するよう検討②激変緩和措置を講ずべき、とした中間取りまとめから4日後に財務省が老齢加算の廃止などを内示した点に着目
▼「考慮すべき事項を十分考慮していない」などとして一審の福岡地裁判決を取り消し、北九州市で生活保護を受給されている39人のお年寄りの原告「勝訴」判決となった。同様の裁判は原告敗訴が続いていたが、今後の訴訟や生活保護行政に大きく影響しそうだ
▼残り少ない人生、せめてごく普通の生活をしたい。そんな思いで立ち上がった74歳から92歳の原告たち。弁護団長の高木健康弁護士は「画期的判決であり原告はみな高齢なので国は控訴しないで欲しい。厚労省に老齢加算復活を申し入れに行きたい」と話す。一審判決では「憲法が保障する生活保護を下回っているとまでは言えない」などとして原告の訴えを退けていた
▼生活保護では、30万世帯が老齢加算を、10万世帯が母子加算を受給していたが自民党政権下での抑制政策により減額・廃止された。母子加算は、障害者自立支援法とともに政権交代で見直しが決まっている。この10年間、社会保障抑制策が次々に打ち出された。「まず削減ありき」の国は生存権とは何か考え直すべきだ。

新聞OB会北九州「温故知新」2010年6月22日

医療崩壊はどこの病院でも
医療を受けるのは「基本的人権」


 「ゼロの会」辻井喬さんとスペシャル対談


 医療機関での重すぎる窓口負担の解消などを目指し活動を続けている「ゼロの会」が4月3日、横浜・桜木町で作家・詩人の辻井喬氏をゲストにスペシャル対談を開催した。マイケル・ムーア監督の話題の最新作、ドキュメンタリー映画「キャピタリズム~マネーは踊る」の上映もあり、定員500人余りの会場には市民が詰め掛け立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。

 辻井氏は実業家・堤清二として旧セゾングループ代表を務めたが、94年には「虹の岬」で谷崎純一郎賞受賞したのを皮切りに、作家・詩人として精力的に執筆活動を本格化させた。父・堤康次郎との確執と理解、自らの思いなど人間の複雑な内面を描写した「父の肖像」(2004年)では野間文芸賞を受賞。「消費社会批判」や「憲法に生かす思想の言葉」など社会や経済に関する著作も多い。3月には大平下首相の生涯を描いた「茜色の空」(文芸春秋)を刊行した。

 対談は、神奈川県保険医協会前理事長で糖尿病専門医の平尾紘一氏と進められ、ジャーナリストの早川幸子氏が司会を務めた。

 平尾氏は最初に、いつでも、どこでも、誰でも保険証1枚で病院に掛かれるのが日本の特徴で「WHO健康達成度で日本は世界一を誇るが、医療費は世界では21位と、安いのに質が良くとても効率的だった」と話した。「しかし、低医療費政策が長引き、国民の85%が3割負担となって治療中断や受診手控えなどが相次いでいる。私の病院でも、できれば栄養士さんなどスタッフをもう1人2人雇用できれば治療の成果が上がるのにそれができない。医療崩壊は、実はどこの病院ででも深刻な問題となっている」と強調した。

 辻井氏は、「医療などの社会保障は憲法で明確に定められているが、実際には十分ではないのは問題だ。医療はその国の状態を表す。アメリカの医療は、ある面では遅れているのに、政治家や官僚などは、そんな『アメリカのようになれば良い』と考えているのだろうか」と現在の医療政策に疑問を呈した。

 さらに辻井氏は「企業や財界人は働く人の立場に立って考えていない。社会保障の負担をしたくないので非正規雇用を増やす。弱い立場の人に冷たい企業、そして社会になっている。医療を受けられるというのは『基本的な人権』だ。人間を人間らしく大切に扱える制度や国にしなければならない」と指摘した。

 フロアーから活発な質問や意見が出された。ゼロの会に賛同している作家で精神科医のなだいなだ氏は「酒税をアルコール依存症の治療費に回そう。空気を悪くした企業が肺がんの治療費も出すべきだ。そうした観点も重要では」と発言した。

 対談に先立ち、前作「シッコ」に続き世界から注目を受けているマイケル・ムーア監督の2年ぶりの最新作「キャピタリズム~マネーは踊る」が上映された。資本主義大国・アメリカでは1%の富裕層が95%の富を独占。利益のために従業員に無断で生命保険を掛け、高金利で無理に勧めた住宅ローンが払えなくなると家を取り上げ放り出す。「利益と富がすべて」であるアメリカの実情を鋭く描いた映画に満場の拍手が沸き上がった。


人権侵害の指導、改めさせよう  保険医への指導、監査の改革を!3.13全国集会


保険医への行政指導を正す会

2010.3.13

 保険医らに対する指導で人権侵害が常態化している問題で、「保険医への指導、監査の改革を!3・13全国集会」が3月13日、東京都内で開かれ全国各地から医師・歯科医師や患者、弁護士ら約100人が出席した。自らも歯科保険医である国会議員が以前、指導に呼び出された際、異常な雰囲気で威圧されたことを話すなど、単に行政指導に過ぎないのに、保険医の人権が無視され、不正・不当との判断が一方的に押し付けられている実態があらためて明らかになった。

 集会は保険医への行政指導を正す会の主催。挨拶に立った川口浩衆院議員(民主党)は「保険医への指導などは異常な状態になっている。私も以前、共同指導に当たったことがあり、持参物が不足していたとの理由で、(監査への移行を意味する)『中止』『中止』と担当官から怒鳴られた経験がある」と述べ、改善に向けて全力を尽くすと決意を語った。

 また、初鹿明博衆院議員(民主党)は「(異常な指導がなされていることは)普通では考えられない事態。行政と国民が公平な関係でないのは問題。不正は論外だが、真面目な人が不当な圧力を受けることがないように取り組みたい」と話した。

 基調報告で、「成田国家賠償訴訟」の葛西聡弁護士が、国は個別指導に選ばれたおおまかな理由ですら回答を拒否する一方、実際に適切な治療をしているのに書類上、部位の記載間違いを理由に「自主返還」を強いたことなどを説明。「『指導は、国民の任意の協力によってのみ実現される』『(国などは)行政指導の趣旨、内容、責任者を明確に示さなければならない』と行政手続法で定められているのに、国は従わず論理矛盾した弁明に終始している」と裁判の状況を話した。

 シンポジウムでは、各地からの報告があった。岐阜市の大島健次郎氏は「私は内視鏡での手術・処置が中心なので平均点が高くなり、指導に呼び出される。『拒否とみなすぞ』と監査や取消をほのめかされることが何度もあった。医療費抑制の手段として使われているのは大きな問題」と指摘。「溝部訴訟」で患者の立場として「山梨小児医療を考える会」を立ち上げ支援する田中聡顕氏は「溝部先生はこどもや家族に優しく患者のことを最優先に考えてくれる。廃院されると本当に困る。お母さんたちを中心に患者会を作り3万人近い人が署名し国に公開質問状も出した。溝部先生への指導や監査、そして取消は非常に不条理で許せない」と話した。

 また、成田国賠訴訟の成田博之氏は訴訟に至った経緯と国の本音を解説。「本来、医療現場と行政が相互信頼の上に立って協力共同すべき。患者・国民、医療関係者の権利を擁護し、各者が施策に参加できる医療行政を実現しよう」と訴えた。

 最後に、「闘っている保険医を支援し、不当な指導や監査には保険医同士が支え合い共有し、正当な権利を主張して立ち上がろう」などとする集会アピールを採択した。(杉山正隆)

・写真は「患者・住民を巻き込んだ運動に拡げる契機に」と挨拶する「正す会」代表の大竹進氏



カネミ油症被害の集中する五島市で視察会ー保団連公害環境部


カネミ油症被害の集中する五島市で視察会ー保団連公害環境部

2009.12.20

 保団連公害環境対策部は11月22、23日の両日、長崎県五島市で公害視察会を開催し、カネミ油症患者・被害者26人を含む70人が参加した。福岡県からは歯科協会の杉山正隆副会長、医科協会の和田文夫理事が視察団に加わった。カネミ油症は「病気のデパート」と言われるほど様々な疾病が同時並行的に発症する。今回の視察会で歯科・口腔検診も行われ、1968年の事件発生から40年余りを経た今も被害者が救済されず、苦しんでいる実態が明らかになった。

 カネミ油症事件は、カネミ倉庫(本社・北九州市小倉北区)が製造した食用油にPCB(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシン類が高濃度に混入したことによって起きた。患者らは1970年にカネミ倉庫と鐘淵化学工業(現・カネカ)、国を相手取って損害賠償請求訴訟を起こし二審では患者らが国に勝訴し約830人が仮払金約27億円を受け取ったが、最高裁で逆転敗訴の可能性が高まったため、訴訟を取り下げた。

 油症患者は法的に救済されていないばかりか、国は仮払金の返還を求めるなどした。患者らは生活に窮したうえ、差別や偏見を受けながら、時間の経過とともに事件は風化してきた。しかし、2004年に認定基準がようやく見直され、仮払金が特例法により国が債権放棄するなど、被害者救済に向け動きはじめたが、数多くの問題が残されたままだ。

 今年、長崎県や五島市で未認定患者に対する健康調査が開始され、カネミ倉庫を相手に福岡地裁小倉支部で新たな訴訟が起こされたことをふまえ、保団連として長崎の離島である五島で視察会を実施した。

 初日の22日は、保団連公害環境対策部長の野本哲夫医師の主催者挨拶に続き、五島市健康政策課の吉谷清光課長が、全認定患者(1,927人)の3分の1以上にもなる697人の患者を抱えている五島市の被害者救済の取り組みについて報告。高齢化する被害者を早急に救済するため理解と支援を求めた。 

 また、弁護士の古坂良文氏がカネミ油症裁判の経過と現状や課題について報告した後、水俣協立病院の藤野糺名誉院長がカネミ油症と水俣病の類似点を含めた油症の医学的な到達点について講演した。藤野氏は、油症はダイオキシン問題の頂点に位置する重大な問題ととらえるべきで、実態解明をすすめ、医学的に問題が多かった診断基準を見直すなど、被害者救済が急務の課題と指摘した。

 23日は、五島市の奈留島を訪れ、患者・被害者との懇談、交流を行い、油症患者の実態を聞き取るとともに、希望者には簡易な歯科検診も実施した。

 その結果、油症患者の口腔は出血傾向があることや、歯肉にメラニン様色素沈着が見られること、義歯装着者には疼痛がでやすいことなどが分かった。外見上、異常は軽微にとどまる一方、患者の苦痛は軽減しにくいことから、歯科治療の際、「不定愁訴が多く扱いにくい患者」などと扱われる恐れがあることが明るみに出た。

 交流会で、被害者の会の宿輪敏子事務局長は「全国から医師・歯科医師の先生方が来て下さり感謝しています。今日、近年になく多数の患者が集まったのはお医者さんへの大きな期待があるから。みな体中のさまざまな症状や痛みに苦しんでいる。被害者を早く救済して欲しい」と訴えた。五島市訴訟原告団の古木武次団長は「賠償勧告に従わないカネミをやむなく提訴した。支援をお願いしたい」と話した。

 視察会では、①被害者の健康調査の実施、②油症の検診・研究事業の抜本的な見直し、③医療費の給付など医療・生活支援措置、④認定基準の抜本的見直し、を求めるアピールを採択し、政府・厚生労働省はじめ関係機関に送付した。



鳩山政権1カ月 社会保障政策でも疑問符 公約と政策に目立つ食い違い


鳩山政権1カ月 社会保障政策でも疑問符 公約と政策に目立つ食い違い

2009.10.27



 鳩山政権が誕生して1カ月余り。今年度1次補正予算の見直しと、2次補正予算の立案、来年度予算の概算要求を進める中で、マニフェストなどの政権公約と、実際の政策との間に大きな食い違いが表面化しつつある。世論調査で期待する閣僚に挙げられた長妻昭・厚生労働大臣だが、医療関係者から「明確な公約違反がある」と指摘されるなど社会保障政策でも疑問符が点き始めた。


ITできない医師は廃業か
 その1つが、「レセプトオンライン義務化」を巡る政策の転換だ。医療費の請求手続きがIT化され、1年余りでほぼ完成される。医療機関が患者に代わって手続きするため問題化しにくいが、患者の氏名や生年月日、病名、治療内容などの個人情報が含まれる。国が蓄積して活用し、住基ネットなどと組み合わせることで、機密性の高い個人情報を国が握ることになる。これらの情報利用は民間への開放が前提となっており、悪用や情報漏えいが懸念される。



 民主党は、従来の手書き請求を容認する「原則化」をマニフェストで公約した。山間地や離島の診療所や高齢の医師などから廃業せざるを得ないとの悲鳴が全国から湧き上がり、訴訟に発展したことにも配慮した。

 しかし、長妻大臣は10月9日、「将来的には100%オンライン化したい」と述べ、医師全員が高齢な場合や小規模医療機関は当面、除外する例外規定などを新設した上で、実施する方針を打ち出した。

 民主党のベテラン衆院議員の1人は「IT化できない医師は廃業しろ、というのは問題だ。政権を取ると国民の情報を管理できる方が都合が良いから変節したのだろうが、公約違反だ」と眉をひそめる。自公政権下とは異なり、議員個人や党の部会などの意見が尊重されにくく、鳩山首相ら首脳と、大臣、副大臣、政務官の政務三役で政策を決定することへの批判が強い。



医療崩壊の対策は後回し?

 生活保護の母子加算は年内に復活しそうだが、障害者自立支援法廃止は未定だ。後期高齢者医療制度の廃止について、長妻大臣は「1期4年の中で実現する」とトーンダウン。一部は来年4月の診療報酬改定の中で先行実施する意向を明らかにするにとどまった。

 その診療報酬を答申する中央社会保険医療協議会(中医協)について、政府は廃止か権限縮小など大幅に見直す検討に入った。自民党の支援組織・日本医師会の影響を排除するのが目的だ。しかし、専門性の強い診療内容を国会で詳細まで決めるのは不可能。公平性・中立性を保つのは容易なことではない。

 医療崩壊が社会問題となったのを受け、診療報酬を10%程度上げて医療費を増やすことを民主党は公約していたが、来年度予算の概算要求では3000億円と約4%上げにとどまった。医療関係者からは「焼け石に水。とても医療を立て直せない」との声が上がっている。

 政府は、「年越し派遣村」元村長で反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏を国家戦略室の非常勤政策参与として迎えた。臨時国会の論戦と来夏の参院選を控え、厳しい財政状況を見極めつつ、国民生活を立て直す政策を打ち出せるのか。社民党、国民新党とともに、民主党の正念場はこれからだ。

〔写真説明〕

 湯浅誠氏らが参加した社会保障充実を求めるシンポジウムには500人を超す市民が詰め掛けた(9月27日、東京・新宿。「貧困をなくし社会保障を守る『基本法』を考えるシンポジウム」。撮影・杉山正隆)

 特別国会が召集された9月16日には、8月30日の総選挙で当選した新人議員らも初登院した(9月16日、東京・永田町。撮影・杉山正隆)

日本ジャーナリスト会議(JCJ)発行
「ジャーナリスト」2009年10月25日
(出稿10月15日、編集10月20日)


私たちも変わらねば


私たちも変わらねば

 総選挙で民主党が「圧勝」。民社国の連立合意、そして首班指名と異例づくめの政局だ。

 朝日新聞は9月10日付けのコラム「天声人語」で社民を7キロのスピッツ、国民新を3キロのチワワに例えたのはおもしろい。小さくともキラリと光る、か。一方の民主は308キロのクマ。「頭脳と度量の見せどころ」に期待したい。
 天声人語でも「気がかり」としているのが119キロの自民イノシシだ。得票率は民主党に迫ったのだが、結果は惨敗。公明は代表はじめ幹部の多くが落選した。小選挙区の怖さが身に染みただろう。

 共産は2大政党の「逆風」の中、何とか踏ん張った。政権の一角に入った社民と路線の違いはあるが、革新勢力ができるところでは協力・協調し、医療、年金、介護などの社会保障を立て直して欲しい。

 民主主義で誤解されているのが、「多数決の論理」。1票(人)でも多ければ、多い方の意見が通る、と考えがちだが、実は事情は違う。「多数派が少数派に歩み寄り、少数派の違憲を採り入れて合意形成に努力する」のが正しい姿だ。

 ヒットラー下のドイツで、絶対多数を得たナチスが「民主主義」により、非道な政策を繰り返し、歯止めを掛けられなかった反省から「修正」されたものだ。新政権では、少数派の意見を尊重し、日本を根本から変えて欲しい。

 そして、重要なのが私たちがどんどん声を上げて運動することだ。政治を動かすのは政治家ではなく国民。生活に直結する政治を変えるには私たちが変わるしかない。
新聞OB会機関紙 2009年9月号 コラム 「ひろば」より


第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議 (9th ICAAP) バリ島で開催


第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議 (9th ICAAP) バリ島で開催

 今も世界中で感染者が増え続けるHIV/エイズ。問題解決に向け、さまざまな角度から話し合う「第9回アジア・太平洋地域エイズ国際会議」(9th ICAAP)が8月9日から13日、インドネシア・バリ島のヌサ・ドゥア国際会議場で開かれた。会議にはアジア地域を中心に78カ国から約6000人が参加し、2000を超す演題が発表された。日本からは医師や栄養士、大学生ら約50人が出席し、食べ物を適切に口から摂取する重要性が再認識され、「より良く食べることで、生活の質(QOL)が向上する」ことなど歯科に関連・隣接する分野で大きな注目が集まった。

 今回の会議のテーマは「Empowering Peoples, strengthening Networks」(人々に力や権限を取り戻させ、ネットワークを強めよう)。程度の差こそあれ、世界中でエイズの流行が拡がって20年以上になる。グローバル化が進むにつれ、人々の移動や移住に対応する介入策や、地球規模、地域規模での対策が一段と重要になっている中での会議だった。

 7月末の大統領選挙で再選されたばかりのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領も大統領特別機で空路バリ島に入って開会式に出席。各国に手を携えてエイズ対策に取り組むよう訴える一方で、国内での啓蒙・啓発活動などに今後いっそう力を入れることを公に約束した。

 エイズは「死の病」だった10年前と異なり、治療費を払い、薬さえ飲めば永く生きられる「慢性病」へと質を大きく変化させた。根本治療としてのワクチン開発が期待されてはいるが、依然開発には至っていない。このため、近年の国際エイズ会議では、生活の質をどう向上させるかや、予防法や啓発に関する発表が多くを占めるようになった。

 今回も、日本から多くの栄養士が参加するなど、口から十分な栄養素をしっかり摂取することをあらためて見直す発表が多くなされた。管理栄養士の吉森悠さんは「エイズなどの慢性疾患でも、いくら薬を飲んでいても、栄養の偏りがあれば薬効が十分あらわれないこともある」と指摘。また、別の栄養士は「会議に参加している日本人歯科医師から歯ブラシや口腔清掃の重要性を教わり、たいへん勉強になりました。栄養士と歯科医師・歯科衛生士が連携すれば、患者さんのQOL向上にさらに役立つのでは」と歯科分野への期待を語った。

( 2000を超す演題が発表され、歯科関連分野の発表が目立ったICAAP「バリ会議」 )




 大学生や20歳代の若者たちの活躍も目立った。東京経済大学の大学生ら7人はアルバイトで旅費と参加費を捻出し会議に参加し、会議やスタディ・ツアーなどにも積極的に出掛けた。指導に当たったオーストリア人講師のケイトリン・ストロネルさんは「日本人の若者たちも捨てたものじゃないです。各国の青年たちと交流したのは素晴らしい経験。将来に生かして欲しいですね」と話した。

( エイズへの取り組み強化と支援を求め、大学や高校生らがデモ行進 )




 わが国では6時間に1人の割合で感染者が増え続け、感染者数は2万人~3万人程度とみられている。先進国の中でもペースが落ちず一貫して増加しているのは日本ぐらいだ。一般の歯科医院などにも、感染の事実を告げずに、来院するケースも少なくないとみられる。しかし、HIVは日常生活などでは感染しない。歯科医院では針刺し事故などに注意するとともに、抵抗力の落ちている感染者に術者らから風邪などをうつさないようにする心配りも重要だ。「ユニバーサル・プレコーション」や「スタンダード・プレコーション」と言われる標準的な感染防護を歯科医院でも取り、積極的に治療に当たるようにしたい。そして、歯科治療だけでなく、口腔衛生指導など歯科分野での貢献は十分できるはずだ。
日本歯科新聞8月25日=速報として掲載=


市立札幌病院事件 罰金6万円の一、二審判決を支持 最高裁


市立札幌病院事件 罰金6万円の一、二審判決を支持 最高裁

2009.7.29


 市立札幌病院救命救急センターで研修中の歯科医師(口腔外科医)に資格外の医療行為をさせたなどとして、医師法17条(医師以外の医業の禁止)違反の罪に問われた元センター部長の医師、松原泉被告(59)の上告審で、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は7月23日付けで、松原被告の控訴を棄却する決定をした。罰金6万円とした二審判決が確定する。
 裁判官4人全員一致の決定。松原被告側は「医師法の医業の概念は不明確だ」などと主張したが、今井裁判長は「憲法違反などの上告理由に当たらない」と退けた。

 二審(札幌高裁)で、松原被告側は「研修は正規の手続きを経て、指導医の下で安全に行われ、医師法違反にはあたらない。歯科医師であるとのネームプレートをつけていた。患者の様態が急変した場合の対応能力を向上させるための正当行為で、違法性も阻却される」と主張。検察側は「歯科医師は歯を見るのが職務であり、医療の無資格者。医療行為を習得する研修を受ける必要性はない。患者の急変があっても、救急医に引き継ぐまでの間、救命処置をすれば足りる」とし、全面的に対立した。

 札幌高裁の矢村宏裁判長は「歯科医師が緊急事態に対処する能力を身につけるために救急研修は必要」と認定した。しかし、同センターで行われていた研修は「患者に歯科医師であるとの説明がほとんどなされておらず、医師とほぼ同様の立場で医行為をしていた」などとした。研修には医師による常時の監視・付き添いが必要とし、一審判決後に厚生労働省が作成した「ガイドライン」に照らしても違法性は退けられない、との判断を示し、08年3月、検察の求刑通り、罰金6万円の有罪判決を言い渡した。
 二審判決などによると、松原被告は1998年8月から2001年3月にかけ、医師の免許を持たない歯科医師3人を同センターの研修医として順次受け入れ、7人の救急患者に対し、院内や救急車内で腹部触診や気管挿管などの医療行為を行わせたとして医師法違反の罪に問われていた。

 一審(札幌地裁)に先立ち、研修医ら3人は、責任は小さいなどとして起訴猶予処分になった。医師法17条違反は「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」だが、検察の松原被告への求刑は罰金6万円だった。
(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆) =日刊歯科通信2009年7月29日付け=

派遣切りや生活保護などの生活困窮者 医療、住宅など多岐にわたる悩みが深刻に 特に歯科で治療を受けられない現状が明らかに


派遣切りや生活保護などの生活困窮者 医療、住宅など多岐にわたる悩みが深刻に 特に歯科で治療を受けられない現状が明らかに

2009.7.14

日本歯科新聞 2009年7月7日付け なんでもかけこみ相談会in北九州

 景気悪化のあおりを受け深刻化する派遣切りや雇い止め、生活保護などの問題について、医療、法律、労働、住宅などについて専門家が相談に応じる「なんでもかけこみ相談会&ホットラインin北九州」が6月28日、北九州市の市立生涯学習総合センターで開かれた。医師や弁護士らで作る実行委員会が主催し、北九州市医師会や県弁護士会などが後援し、電話を含め70件を超す相談があった。

 医師・歯科医師をはじめ、弁護士や司法書士、社会福祉士などの実行委員130人が会場や無料電話で相談に乗った。おにぎりや豚汁、惣菜の炊き出しがふるまわれ、歯ブラシや洋服、下着などの生活必需品の配布もあった。

 北九州市では、生活保護の申請希望者が役所窓口などに訪れても、申請書をすぐには渡さず再考させるなどの「水際対策」を採ってきた。何度も窓口で申し入れても生活保護を受けられず、生活に困窮し餓死した状態で発見される事例が毎年のように出る事態となり、「闇の北九州方式」と恐れられ大きな社会問題になった。厚生労働省は表向き、同市の対応は「問題がある」としながらも、社会保障費の1つである生活保護費が削減されることに注目。強い批判を浴びた同市は対応を一部、改善したものの、北九州方式を採り入れようとする自治体は少なくない。

 世界同時不況が追い討ちを掛け、悪化する雇用情勢に危機感を強めた弁護士や司法書士を中心に、これまで個別の相談や炊き出しなどを実施してきた。状況が一向に改善しないことから各団体が集結し5月に実行委員会を発足。一体的な相談会の開催で、生活に困った人たちを一体的、総合的に支援しようと準備してきた。

 この日の医療相談では、訪れた53人のうち約3割の14人は健康状態が「不良」と判断され、治療に行くようアドバイスを受けた。特に、歯科では治療を受けられず、歯がほとんど失われたり、多数のムシ歯のまま放置されている人がほとんどだった。健康保険も30人ほどが無保険の状態で、治療を受けたくても受けられない状況にあることが分かった。また、無年金の人が多く、生活費が底をついた人が半数に上った。

 実行委員会では、寄せられた相談について、生活保護申請や医療、年金、多重債務、住宅などの支援を継続するとともに、市や県、国などに対し支援体制の改善などを求めていくことにしている。

 実行委員の高木佳世子弁護士は「生活に困って、1人で多くの問題を抱えてしまう人が多い。医療・健康問題などは後回しにせざるを得なくなり、さらに問題解決が難しくなる実態がある。今後も相談会の開催を検討したい」と話す。

 厚労省が6月30日に発表した5月の有効求人倍率は0・44倍。99年5、6月と並んで過去最低の0・46倍だった4月を下回り、最低を更新した。総務省が同日発表した労働力調査(速報)によると、5月の完全失業率は03年9月以来、5年8ヶ月ぶりの水準の5・2%と悪化し、過去最低(5・5%)に迫っている。労働局の幹部は「政府内でも一部に景気底打ちとの意見もあるが、現場ではそういう実感はない。まだ悪くなるかもしれない」と話す。

 不況に加え、政策ミスのしわ寄せが、医療、特に歯科領域で「国民皆保険」の恩恵に預かれない「放置」の形で現れている。歯科医療も社会保障の一部であることを厚労省をはじめとする行政や歯科医療関係者は心し、施策に反映させるべきだろう。
(歯科医師・ジャーナリスト 杉山正隆。写真も)


写真説明 相談会では医師や歯科医師、弁護士らが一体的に生活困窮者への相談に応じた。(撮影・杉山正隆)


新型インフルエンザ 冷静さ欠く日本の行政とメディア 「医療崩壊」の現状で困難な対応


新型インフルエンザ 冷静さ欠く日本の行政とメディア 「医療崩壊」の現状で困難な対応



 大型連休をはさみ世界に拡がる新型インフルエンザ。国内でも感染拡大が続き学校の休校など大規模の措置が取られたが、毒性が想定されより低かったこともあり、各国では早期治療や病弱者対策に軸足をおいた冷静な対策がなされた。しかし、わが国では舛添要一厚生労働大臣のメディアへの露出が目立つ一方、「封じ込め対策から早く政策転換すべきだ」と内外から批判が出るなど問題点が明るみになってきた。

 日本では諸外国では行われない「機内検疫」を実施。新型を疑われた例を舛添大臣自ら次々に発表するなど極めて異例の対応を取った。WHO(世界保健機関)は、検疫に感染症の拡がりを減らす効果は認められない、との見解を5月7日にあらためて発し、国際交通に影響を及ぼす方策を採る国は、その理由と証拠を提出するよう求めた。

 厚労省の膨大な情報発信もあり過剰反応も相次いだ。教育委員会の中には、生徒や家族がメキシコや米国、韓国を訪問した場合は、帰国後10日間、学校を休ませるなどの例が続出。日本初の感染者が出た高校には「なぜ旅行先でマスクをしなかったのか」など批判の電話や手紙が殺到した。米国、カナダなどでは「マスクは効果が薄い」が常識であり、過信はかえって危険なのだ。

 海外出張や学会参加を中止する例が日本人のみ頻発。「東京かぜと命名すべき」と皮肉る報道もあった。

 アジア各国では冷静な対策が取られた。香港では、発熱や渡航先などを調べる質問票を基に検疫官からの質問はあったが、予防法を記した文書が配られ早期治療をPRする放送が繰り返されたほか、手洗いや洗口器具が特設された。韓国やタイ、スリランカ、UAEでは通常と同様の対応で、トップニュースなどでの報道はされたが、日本のように通常の番組や記事を差し替えてまでの展開はなかった。

 ウイルスは姿を変化させて人間に脅威を及ぼす。今後、病原性が高まったり、別のH5N1などが流行したりする可能性が高い。感染症の専門家は「効果の薄い水際対策に躍起になった日本政府のパニックぶりは問題だ。致死率の高い本当の『新型』などの感染症には対応できない」と話す。

 早期の発見・治療が重要で、病気にならない健康づくりが重要なのは感染症に限ったことではない。厚労省は感染症外来を整備しているとするが、これは安上がりだが不十分な対策だ。強力に推し進めた医療費抑制政策の影響で、医師や看護師が不足する「医療崩壊」に至った現状では、感染症への対応は困難だ。

 新たな感染症の発生は今後も続く。不採算を理由に廃止を進めた公的病院を復活させる必要がある。感染者らを隔離するにしても期間を不必要に長くせず、発生した損害は一定額補償する制度を確立すべきだ。また、今後は予防と早期治療を確実に行い、妊産婦や乳幼児、糖尿病・高血圧などの病気を持つ人の体調管理を徹底すべきだろう。

 専門家は「今回の新型は毒性、病原性は低く、感染力は従来型と同程度。伝播性は強い」と見るが、こうした用語を正確に理解する報道は少ない。情報量が多ければ良いというものではない。過剰反応や無関心を防ぐべく、背景を含めた解説記事を充実させる必要がある。(日本ジャーナリスト会議運営委員 杉山正隆)


香港では出国直前にあわててマスクをつける家族連れが目立った
日本ジャーナリスト会議(JCJ) 「ジャーナリスト09年5月号」より

北九州・小倉で医療問題緊急集会
 JCJ北九州支部は新聞OB会北九州と5月31日(日)北九州市小倉北区の朝日新聞西部本社4階「さんさん広場」で、医療問題緊急集会を開く。テーマは「今日の医療問題について考えるーどうなる後期高齢者医療制度、介護保険~新型インフルエンザの現地報告を交えて~」。

 講師は、歯科医師でジャーナリストの杉山正隆氏。杉山氏は元毎日新聞(東京)記者。94年の「横浜会議」以来、国際エイズ会議に毎年出席するなどエイズをはじめとする感染症に詳しい。「神戸会議」の際は、関西空港検疫所でHIV(エイズウイルス)感染者の受け入れ支援やメディアセンター運営などを担当した。

 杉山氏は、今回の日本での対応について、「政府やマスコミがパニックに近い状態になっており、それによる被害が出始めている。感染症対策のノウハウを蓄積しているアメリカなど各国の冷静な対応に学び、バランスの取れた対策に戻るべきだ」と話す。

 そして、大型連休中に取材に入った香港、韓国、タイなどでの新型インフルエンザ対策の実情を報告。参加者とともに、国の失政により「医療崩壊」に至った現状を見据え、不採算を理由に廃止を進めた公的病院を見直すことや、諸外国と比べて少ない医療費を増やすなど、医療を充実させる手法などを話し合う。

第23回保団連医療研究集会 第17回国際エイズ会議

第23回保団連医療研究集会 第17回国際エイズ会議

2008.11.27

ポスターセッション資料
LinkIcon国際エイズ会議①
LinkIcon国際エイズ会議②

日本ジャーナリスト会議(JCJ) 「ジャーナリスト」より


国際エイズ会議
止まらぬ患者増、深まる危機感 問われる日本メディアの無関心

2008.10.25


 今も感染者が増え続けるHIV/エイズ。問題.解決に向け様々な角度から話し合う第17回国際エイズ会議が8月、メキシコシティであった。ラテンアメリカ初となった会議には194力国から2万5千人の医師や感染者、NGO(非政府組織)、政府代表らが参加した。パン・ギムン国連事務総長やクリントン前米大統領ら政治指導者が多数出席したほか、3千人を超す記者が全世界に会議の模様を連日、発信した。しかし日本ではほとんど報道されず、取材や報道姿勢の違いが際立った会議となった。

 パン国連事務総長は「エイズへの対応には長期的かつ持続的な資金供給が必要」と強調し、2010年までに全ての人々が治療や薬を得られるように、との国連などの提言を守るよう各国に求め、「世界規模での予防と治療の『ユニバーサル・アクセス』を実現させよう」と強く訴えた。

 エイズの感染経路は性行為や母子感染等によると分かっており、ワクチンなどの根本的治療法は未開発ではあるものの、予防法も確立しつつあり「死なずにすむ病気になった」(日本人研究者)。だが、年間の新規感染者は270万人と感染拡大は続いており、理想とされる「ユニバーサル・アクセス」には程遠いのが現実だ。貧しさや差別などから医学の恩恵を受けられない人が多く、みすみす助かる命が今も失われているのだ。

 最新の研究成果などの演題は1万を超し、メディアセンターは常時満席の状態。CNNやBBCなどは特設スタジオから特別番組を放送した。日本のメディアも、毎日新聞、共同通信の現地駐在・記者らが記事を送ったほか、NHKが東京や北米総局から取材クルーを派遣。時事通信なども出稿した。だが、実際に掲載されたのは開会式の模様を短く伝える記事が中心で、踏み込んだ内容はほとんどなかった。日本のメディアを見ると、「エイズはすでに過去のこと」のようだ。

 だが、先進国やアジアの中で感染者が目立って増加しているのが他ならぬ日本だ。厚生労働省エイズ動向委員会によると、日本では96年以降、増加が続き、07年の新規感染は1082件。エイズ患者418件と合わせて1500件で過去最高となった。30、40歳代が中心だが、若年層に加え、60歳以上でも増加傾向を強める。

 会議に日本からも研究者ら50人余りが出席したのは強い危機感からだ。エイズは病気の側面だけでなく、人間社会の様々な歪みを映し出した悲劇である。

 黙殺を決め込んだ日本のマスコミは、メディアの感覚が問われている。(運営委員 杉山正隆)

新聞OB会北九州会報コラム「温故知新」より

新聞OB会北九州会報コラム「温故知新」より

2008.10.21

 年金での不祥事に加え、「長寿医療」を巡る問題が噴出。厚生労働省・社会保険庁は何をやってきたのか。違法行為や不正が強く疑われるのに、誰も責任を取らない。「官僚や労組が悪い」と麻生首相らは言うが、行政組織を監督する与党に責任があるのは明確だ。

▼厚労省・社保庁の「もう一つの闇」と指摘されるのが、医師や医療機関への「指導」だ。不正請求防止などの名目で、医師らを呼び出し、暴言や脅迫などで医療費を返還させる。医療費抑制を進めようと強化され、各地で医師が自殺に追い込まれる例が急増している。

▼高熱に苦しむ子どもを診た医師は、保険では子どもに使えない特効薬を、引率の母親に出したことが「不正請求」として保険医を抹消された。ある歯科医師は、カルテ記載ミスを理由に何度も呼びつけられ、「診療できなくしてやるぞ」と怒鳴られ自殺を図った。

▼保険のルールを決めるのも、変えるのも、不正か否か判断するのも厚労省・社保庁。秘密のべールの中で恣意的に運用されるのが実態だ。国や医師会などに都合の悪い医師に「不正」のレッテルを貼って抹殺するのは簡単なのだ。

▼「まるで特高警察」と危機感を強めた医師や弁護士らが「指導・監査・取消処分支援ネット」を結成。支援集会では、医師らに対しセクハラやパワハラを繰り返した社保庁職員を断罪する勝訴判決の報告もあった。

▼官に甘く民に辛い日本。それを変えるには行動するしかない。日本を「民主主義国家」へと脱皮させるために、総選挙は最良の方法だ。(杉山正隆)

全国保険医新聞 2008年10月5日号より


行政の違法行為や人権侵害  裁判での闘い支える  指導・監査・取り消し処分  支援ネットの集会に70人

「ネット」の結成報告を兼ねた支援集会のもよう 保険医・保険医療機関に対する指導や監査と、その結果、課される取り消し処分などに対し、司法の場で闘う医師・歯科医師らを支援する「指導・監査・取り消し処分支援ネット」がこのほど結成された。同ネットの結成報告を兼ねた支援集会が9月23日、東京で開かれ全国から70人が参加。保険医に対して違法行為や人権侵害が行われている実態が明らかにされた。保団連の住江憲勇会長は、集会にメッセージを送った。

 集会では、支援ネットの高久隆範代表世話人が、40年以上にわたり個別指導が密室で恣意的に行われ多くの自殺者が出たのに改善されることがなかったことを強調。「保険医取り消しを目的とした『狙い撃ち監査』ともいうべき手法が取られている。こうした理不尽に患者さんからも励まされ、画期的な勝訴などを得てきたのは、本日参加している先生方の奮闘があったからだ」と話した。そして、「訴訟を傍観するだけでは指導や監査の改善は絶対にあり得ない。長年、保険医を苦しめてきた指導・監査・取り消し処分という構造自体を訴訟支援を通じ、根本的に変えるべきだ。積極的な支援をお願いしたい」と呼び掛けた。

保険医にとっては「死刑」に等しい

 岡山県の歯科医師、暮石智英氏は、国家賠償請求訴訟を起こした経緯を報告した。地裁、高裁で敗訴はしたものの、①指導に従うか否かは保険医の任意②指導を従わなかったことを理由に不利益な取り扱いはできない。

③指導官らの見解に異論がある場合は同意できない旨を述べ指導に従わないこととすればよい、など暮石氏の主張の核心部分が認められた。

 兵庫県の「細見訴訟」弁護団の西田雅年弁護士は、神戸地裁は被告の兵庫社会保険事務局の保険医取り消し処分について、裁量権の範囲を逸脱。濫用があったとして違法と結論付ける画期的な勝訴判決だったと話した。

「取り消しは保険医にとって『死刑』ともいえるもの。戒告・注意との差が大きすぎる。指摘で直させればすむものまで安易に取り消しにされているのは問題だ」とした。

 また、保険医取り消し処分の執行を停止する勝訴の決定を得た山梨県の医師、溝部達子氏や、監査に対し国家賠償請求訴訟を起こした高知県の歯科医師、塩田勉氏から報告があった。「暮石訴訟」「塩田訴訟」弁護団の竹内俊一弁護士は「違法で不適切な『患者調査』がなりふり構わず行われている実態もある。全国から指導や監査などの情報を集め分析したい」と述べた。

 支援ネットの事務局は岡山県保険医協会(電話086-277-3307)内に置かれている。

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