政策部解説

消費税減税に反対するのは如何なものか

   政策部解説Vol.189 2025.8

 この記事が出た頃には参議院議員選挙の結果が出ていると思います。ほとんどの国民は、物価高で非常に苦しい生活を強いられています。7月からも飲食料品値上げは2105品目値上されると報道され流石に気分が重くなりました。このように物価高騰が極端に激しく、そして実質賃金も7月発表の段階で5か月連続マイナスになっています。
 さて、「物価高騰に2万円の給付で手打ち」との自民・公明与党政権ですが、これが参院選挙目当てであることは誰の目にも明らかです。
 それに対して「減税」特に、消費税減税についてはゼロ回答。今回の参院選ではこれが争点の一つと思います。自民党の森山裕幹事長が「消費税を守り抜く。消費税を守り抜くことが国民を守ることになる」との発言がありましたが、手を付ける気はありません。個人的には、消費税を守ることが国民を守ることになるというのはどうも理解に苦しみます。
 去る5月18日に「消費税減税にはシステム改修に時間が掛かる」との小泉現農水大臣の発言がありましたが、日本での消費税(標準税率)に相当する税金を短時間で下げた事例は多くあります。コロナ禍の2020年にドイツは標準税率の引き下げを6月3日に発表し、7月1日に施行、イギリスは7月8日の発表し7日後に、アイルランドは5週間後に実行しました。この事例からすると出来ない事はありません。やる気がない、出来ない、やりたくないので適当に理由を言っているだけにしか思えません。何より「国民から税金を取る」ことが目的化します。
 消費税は医療など社会保障の財源になっている、とする発言もよく耳にしますが、消費税法に社会保障財源と書いてあるだけで、実質は一般財源であるため、歳出の割合通り集めた10%しか医療費には充てられていないのです。消費税は結局、この間引き下げられてきた法人税の穴埋めに使われ、企業の内部留保の原資になっていると見えます。
 企業の内部留保を調べてみると、2013年328兆円(2012年末に第二次安倍内閣発足)、2023年600.9兆円、11年間で273兆円増加、平均して毎年24.8兆円の増加、2013年を基準とすると、年率7.51% 増加したことになります。この間、消費税は5%→8%(2014年4月)→10%(2019年10月)に増税されました。自民党幹事長が「消費税を減税したら、医療に回す予算が無くなる」とは正に欺瞞で、内部留保に回らなくなるというのが正しいと思います。企業のために消費税減税しないということになるのでしょう。
 消費税を下げると購買力が上がるとも言われています。消費税減税に反対の政府に申し上げたい。「どうか、一度でいいですから消費税率を下げてください。」
 

令和「米」問題

   政策部解説vol.188 2025.7 

 ここ最近巷の話題は「米」。米5kgで4000円を超えた、など値段の事に感心集中していました。小泉農水大臣になった途端、政府の古米、古古米・・を随意契約で行い、消費者には2000円程度で迅速に販売、そのスピード感には驚愕しております。
 これは、農家から買った古米などを売ったのではなく、政府の備蓄米を倉庫から出したのだから、今回は生産者である農家には何の儲けもない、農家は蚊帳の外と思っています。
 昨年の当会の定期総会の記念講演をなさって頂いた東大大学院特任教授の鈴木信弘先生は、ある番組でこの「米騒動の根本原因は稲作農家の疲弊にあり、それを放置して流通悪玉論や農協悪玉論が展開され、米国からの輸入米への市場開放や農協組織の外資への差し出しにつなげるストーリーが危惧される。」とお話されていました。確かに、時給10円、生産者の平均年齢は70歳以上などと言われ、農家の疲弊があることは想像に難くありません。その上、お金と引き換えに減反政策を取るなら米の供給は危惧されます。
 いわゆる食料安全保障の観点からすると兵糧攻めに最初に遭うのは「日本」でしょう。以下、鈴木信弘先生の試算を参考にして頂ければ容易に理解出来ます。飼料、肥料、種を考慮した実質自給率が9.2%であることにご留意して頂きたく思います。
 以前にも述べましたが、安いからと言って食料品を安易に輸入に頼っていることは国防上問題です。ヨーロッパは、歴史上何度も戦場になりその経験上、特に穀物の自給率は100%を超えている国が多くあります。アメリカ(127%)、ロシア(132%)もそうです。
 常温で保存出来る農産物の自給率を上げ輸入に頼る事がないことが求められます。特に米は古米、古古米、古古古米・・これらは十分食べる事は可能です。
 もし、米が安すぎて作れないと言うのなら農家には所得補償が必要です。現にアメリカなどでは行っています。
 

物価高に対応するには消費税減税が一番 

    政策部解説vol.187 2025.6 

 少し前の5月7日に農水省の発表として、「コメ5キロ当たりの平均価格(4月21~27日)は4233円で、17週連続で値上がりした。」と報道されました。その後、少々値動きがあったとしても、4000円を超える金額は持続すると思います。コメに限らず、全ての物価が上がり、国民生活や我々の医院経営が苦しく感じられます。  この対応として与党は「お金のばら撒き」を当初考えていましたが、世論が受け入れないことが分かると、今のところ手の打ちようがなく、何もしないようです。 
 野党が提案している消費税減税について与党は「消費税は社会保障財源だから」と言う理由で消極的と言うより、論じない立場です。 
 ここで、果たしてそうなのか、と素朴な疑問を持ちました。以前からよく見かける消費税増収の金額と企業の法人税減収が見事に対称的になっているグラフを思い出しました。国民から集めた消費税が回りまわって法人税減税に一役買っているのです。
 財務省が発表している企業の内部留保の推移として、2 0 1 3年度は3 2 8 兆円、2 0 2 3 年度末には600兆9857億円となりその間、ずっと最高値を更新しているとのデータがあります(ちなみに第二次安倍政権が始まったのは2012年12月26日)。この11年間で273兆円も内部留保を積み増ししている結果となっています。金額にすると毎年24・8兆円増加、率にして2013年を基準とすると1年に7・5%の増加となります。
 企業の努力を考慮しても内部留保の額を考慮すると儲かっているところから税金が徴収出来てないのかと感じてしまいます。 
 消費税は社会保障の財源、と言うなら43兆円の防衛費の財源はどこから出ているのか、国民あっての日本、企業側の儲けは必要にしても600兆円を超える内部留保になる税システムについては調べた所では論じられた様子はありません。 
 かなり大雑把に言うと、消費税1%が2兆円に相当すると言われています。国民の命、生活を守る社会保障を盾にとって、このような筋違いの理論で消費税減税に消極的であるのはオカシイと感じてしまいます。
 

電子証明書期限切れの

  政策部解説vol.186  2025.5

   マイナンバーカードとマイナ保険証に纏わる問題は枚挙に暇がありません。先生方ご承知の通りですが、マイナンバーカード本体の有効期限が10年、搭載された電子証明書の有効期限は5年です。総務省の資料によると2024年の更新必要枚数が1076万人で25年は2768万人更新が必要です。今年この2768万人全ての国民に案内が届きますが、このような多くの対象の国民全てが、電子証明書の更新が滞りなく行われるか甚だ疑問に感じます。
 当然ながら、この電子証明書の更新が出来ていなければマイナ保険証としては有効になりません。もちろん更新には役所に直接出向いて行うことしか方法はありません。
 日頃マイナンバーカードを利用することのない国民が圧倒的に多いと思いますし、マイナポイントを付けた時期(2020年)にマイナンバーカードを作り、マイナ保険証に紐づけした人でこれら一連の事を覚えていない方々も相当数いらっしゃると思います。
 そろそろ(注)電子証明書有効期限切れのマイナ保険証を持参されて来院される患者さんがいらっしゃる時期と思います。個人的に、わたくしの所もこのような事例を経験しました。当然ながら、「現行の保険証」をもっていないか、「資格確認のおしらせ」の所持などを伺い、以前に当機関紙にも当会から提示したことのある9パターンの方法を考えましたが、どれも上手くいかず理由をお話しました。残念ですが、電子証明書の更新を行ってから、受診をお願いすることになってしまいました。もちろん、当院だけでなく他の医療機関を受診されても同じ結果なので、早急に役所に行くことをお勧め致しました。もちろん、解除し資格確認書に替える事も述べました。
 この事例について考えてみました。行政の言い分では「そもそもマイナンバーカードは任意なんだから、取得するのに納得したのは国民個人である」(マイナポータルにも記載されているし、そのことに起因する不都合な事項が生じてもデジタル庁は責任を取らないとマイナポータルの18条「免責事項」に書かれています)。有効期限切れを知らなかったのはその人が責任を負うことになっているのです。
 気になった事は、「資格情報のお知らせ」を受け取ったかと伺ったところですが、受け取ってないとのお話でした。マイナ保険証の方は必ずこのお知らせが届くのですが、個人宛「親展」で送られてきますが、「重要なお知らせ」とあるだけで封筒を見る限り、ショッピングや保険などの勧誘DMと然程変わりないので、送られてきても何気なく廃棄してしまったことも十分考えられます。
 マイナ保険証へ強引な誘導が原因してのことと感じますが、2~3年前のデジタル庁の言わばゴリ押しが今になって効いて来ました。これは予想していたことです。
 上手くいかない制度システムであることを政府は分かっているのでしょうか、4月になって、後期高齢者の資格確認証は来年まで、事実上1年間有効期間を延長しました。
 益々複雑で理解に苦しむやり方ですね。運転免許証と同様に従来のものと、マイナ運転免許証の2本立てに出来れば何もこんな厄介なことはないのです。
 保険証復活法案が立憲民主党より今国会に提出されています。可決されることが必要不可欠と思っています。
 
(注)電子証明書・・・信頼できる第三者(認証局)が間違いなく本人であることを電子的に証明するもので、書面取引における印鑑証明書に代わるものといえます。有効期限が過ぎた場合には、e-Tax等の電子申請やコンビニ交付・健康保険証等に使えなくなりますので、お住まいの市 区町村の窓口に行き更新手続を行ってください。マイナンバーカード 電子証明書 期限切れ 再発行 の時は、申請から新しいカードの発行までに1カ月半ほどかかります。

「ネット情報で世論誘導」の危険性

   政策部解説vol.185 2025.4 

 
インターネットは手軽に情報取得出来るツールです。しかしながら、S N S(X、facebook、Instagram、LINE など)情報は個人の感情・感覚が大きく影響しているのでfact-checking、裏取りには神経を使います。 
 最近話題になっていることは、某県の知事選挙であったSNSの影響。政策論争よりSNSの情報拡散が選挙結果に大きく影響したと報道されています。所謂「ノリがいい」情報をファクトチェックなしで、面白可笑しくインフルエンサーと呼ばれる世の中に影響力のある個人や団体が自身のSNSに書き込むと、瞬く間に数時間ないし数日以内に急速に拡散され、ともすると瞬間的世論?が形成されているように感じられます。そして、その瞬間的世論が、ある一定候補への投票行動に繋がる流れになったとの報道があります。選挙となると、1票でも多く得票することが必要です。これが大原則なのですから情報戦は「やったもの勝ち」です。 
 これは、日本の選挙に限った事ではないようです。2月23日投開票されたドイツ連邦議会選挙でもSNSが大きく影響したと、ドイツ公共放送の東京支局プロデューサーのマライ・メントライン氏が述べられていた事は興味深いと思います。極右政党と言われる「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党に飛躍的に躍進しました。選挙当初は、泡沫候補や政党であると言われました。SNSを使って件の方法で多数票を獲得し当選者を多く出した構図は同じようです。
 マライ氏はSNSの情報は、簡単に説明できない複雑な社会問題を、ウケの良い、面白い単純な言葉を用い、それも何度も露出する方法で世間に広げる。ファクトチェックもされていない事が多くあるけれど何度も「連呼」されていると、それを聞いている人の中には、一定数の同調者が出てきます。よく言われますが「ウソも100回言われると本当になる」という事なのでしょう。
 このようなSNSの書き込みをするインフルエンサーは理性的な振る舞いより、感情的に趣いた言葉を用いた方が大衆を引き付けることを知っているのでこの手法を用います。何より厄介な事は、フェイク情報はファクトより6~7倍広がりやすい、と言われています。ですから、選挙のような短期決戦では大きな効果があります。
 ネット情報を直ぐに信じる事は危険で、自分個人の意見や判断を決定する際には面倒でも「裏取り」、ファクトチェックが必要不可欠です。
 今後、日本がどんな指導者が、如何なる方向に日本を導くのか最近気になります。
 

立憲民主党が提出した保険証復活法案

   政策部解説Vol.184 2025.3

 石破政権になって初めての通常国会が1月24日に始まりました。今国会では103万円の壁、高額医療費上限額引き上げ、ガソリン税の暫定税率廃止などマスコミ報道では大きく取り上げられています。
 さて、1月28日に立憲民主党が「保険証復活法案(マイナ保険証併用案)」を国会提出したことは最近あまり報道されていないように思います。検索し法律案を読んでみました。1.及び2を掲載します。
 (以下、原文のまま)
Ⅰ「趣旨」
 この法律は、医療保険の電子資格確認に係わる問題が多発し国民の間で電子資格確認に対する信頼が損なわれていること、医療保険の電子資格確認の利用が低迷していること 等に鑑み、医療保険の被保険者証等の交付等の特例 について定めるものとする。
2 「健康保険法等における被保険者証等の交付党の特例」

  1. 医療保険各法の規定による保険者等は、別に法律で定める日までの間、命令で定めるところにより、医療保険各法の規定による被保険者等に対し、被保険者証等を交付するものとする。
  2. 1により交付された被保険者証等は、1の別に法律で定める日までの間、命令で定めるところにより、被保険者等であることの確認を受けるために用いることができること。

 これから読み取れることは、今の保険証(被保険者証)は法律で決める期限まで存続させることです。
 マイナ保険証に関しては言及していませんので、現行の保険証とマイナ保険証を同時存続出来る法案と解釈出来ます。少々異なるかも知れませんが、今年4月からの運転免許証と同じように、現行の運転免許証とマイナ運転免許証の併用と同じような考え方と思います。
 大学時代、ある臨床の講義の時、担当されておられた教授から、「医療を受けようとする患者さんは病める人であり弱者である」と最初にお話された事を覚えています。このような生活弱者の方々が、受診しやすいように、この法案が通過し法律が成立することを願います。
 生活強者はマイナ保険証を利用されても問題ありませんが、いつ急に何時、生活強者が生活弱者に変わるとも限らないのです。もしかしたら、明日そうなるかもしれません。カードリダーの顔認証、暗証番号で確認不可能になるかもしれません。
 この立憲民主党の法案が通り、全ての国民が安心して受診出来るように願うばかりです。

マイナ保険証推進で医療崩壊

   政策部解説Vol.183 2025.2

 昨年12月2日から新規の健康保険証(被保険者証)の発行が停止されました。国は以前住基ネットで失敗した経験から、今度は「この機を逃すまい」とマイナンバーカード普及のために、任意取得であるマイナンバーカードに国民の命にかかわる「保険証」の紐付けを事実上強制する「禁じ手」を使いました。医療機関の受診には「マイナ保険証しかない」とばかりに大きくPRし、国民を言わば騙し討ちにする手法をとったことに大きな違和感を覚えます。そんな事を知らない国民は、急いでマイナ保険証を作らなければならないと切羽詰まった方々も多いと感じます。
 保険証は特に、高齢者や健康弱者には必需品であり、医療機関の受診頻度が多くなりがちです。当然ながらマイナ保険証の使い方には不慣れで扱いに困難を伴います。
 元々、保険証の本人確認が出来ない、最近の薬剤情報が見られない(見られたところで1~2か月前の薬剤情報ですが)、と言うならばマイナンバーカードに「合体」させるものではなく、保険証に本人の写真とICチップを入れればそれだけでよかった筈です。情報漏洩をなるべく発生させないように考えるなら、マイナンバーシステムに集約するのではなく分散することです。世界では日本だけが集約していますが、外国では分散しています。
 そして、医療機関の供給体制に問題が出てきています。
 個人的な事で恐縮ですが、近くに2024年12月下旬をもって閉院された医科の先生の診療所があります。閉院のご挨拶にいらっしゃいましたが「もう、電子処方箋など国のデジタル方針にはついて行けません。年末で閉院することにしました。」とおっしゃっていました。毎日多くの患者さんが来院されていましたが、周りにはその先生の診療科の診療所はありません。患者さんは行き場にお困りなのではないかと懸念いたしました。

マイナ保険証と資格情報のお知らせはセットです

   政策部解説Vol.182 2025.1

 既にご承知と思いますが、2024年12月2日から健康保険証の新規発行が止まりました。
 少しずつでありますが、マイナ保険証を受付に出す患者さんが増えてきた感じがします。
 わたくしの所では、トラブル回避として1.現在使用している保険証は期限まで使えますので使い切りましょう。2.マイナ保険証の方は「資格情報のお知らせ」を同時に提出してください。この2点をお知らせしています。
 そもそもマイナ保険証の頻回トラブルを確認した国は、マイナ保険証を持っている方に「資格情報のお知らせ」という封書を送りました。封書を開けると保険証と同じ大きさ、ミシン目の「資格情報のお知らせ」が入っています。正確に申し上げますと、マイナ保険証を使う際は、これを持参することになっています。それも、今の所、毎回受診の度に提出。
 週刊ポスト12月24日号の記事にも、『1枚で良かった紙の保険証は廃止され、今後はマイナ保険証と「資格情報のお知らせ」の2枚持ちをしなければならないのだから、本末転倒も甚だしい』と痛烈に書かれています。
 しかしながら我々医療現場はトラブル回避のためには、これらを同時に提出いただくことが必要不可欠。あれだけ「デジタル」と声高く言っておきながら、紙媒体の「資格情報のお知らせ」を配るのです。この費用はどれだけなのか、何百億円掛かっているのかと思うと政府、厚労省、デジタル庁の責任は重いと感じてしまいます。前岸田政権時代のデジタル庁のゴリ押しが何の改善もないまま続いているのは、旧日本陸海軍のDNAがそのままなのか、とさえ感じてしまいます。
 さて、トラブル事例の一部を挙げますと(週刊ポストから抜粋)
1.トラブルで一番多いのは“黒丸”。患者さんがマイナ保険証をカードリーダーに置いて読み取った時、パソコンの画面に出る本人情報の名前に『●』表示。本来、これでは正しい本人情報ではないから保険証として不備。
2.カードリーダーの認証エラー。回線接続の不備や回線の渋滞などが原因。「資格情報が無効」もある。転職や引っ越しで個人データが変わったのにマイナ保険証に反映されていないケースだ。マイナカードの電子証明の期限は5年で、それを過ぎれば役所に行って更新の手続きをしなければならない。それを知らずにマイナ保険証が「有効期限切れ」となり、使えない人も少なくない。2025年度電子証明の期限切れの人は2768万人、これら全ての人が区市町村役所の窓口に自ら赴いて手続きしなければなりません。一日仕事を休む必要があります。ネットや電話、そして郵便などではこの手続きは行えません。2768万人の国民全てが出来るとは到底思えません。では、手続きが出来なかったらどうなるか。答えは簡単です。マイナ保険証から資格確認書(実質の健康保険証)に自動的になるだけです。
 マイナンバーカード普及のために本来は任意であるものを国民の命に直結する、国民必需品である保険証をセットにした事、木に竹を接いだことが原因なことは明白。
 個人的には、保険証の新規発行停止をもっと先に延ばすのが一番だと思います。百歩譲っての代替え案として、多くの賢者が述べられていますが、本人確認と保険証は別建てにすべき。もしくは、健康保険証に写真を張り付けるようにすれば、本人確認、資格確認もスムーズになったと考えます。
 本人認証と保険証をミックスしている国は日本の他はないとの事、特異なシステムを取るのが日本。国に申し上げたい「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」。

「マイナ保険証に移行するにはまだ程遠い」今できる現実的対応をしましょう

   政策部解説Vol.181 2024.12

 今の所2024年12月2日から新規に健康保険証を発行しない、と言う事になっています。ゴリ押ししてでも、何が何でもマイナ保険証を使わす政府の意図がありますが、直近の今年9月のマイナ保険利用率は、国民全体で13.87%、因みに国家公務員は13.58%です。今年の秋頃には50%を目指す、とした政府会見は期待値だったのでしょう。この数値を見て様々感ずることがあると思います。
  マイナンバーカードの交付率は10月末で75.7%、2月末の情報ですが紐づけ率は約8割、紐づけ率が57%です。単純に計算すると、国民の4割強の人がマイナ保険証に紐づけしていることになります。
 さて、「保険証を残せ」の運動は今後も活発に行いたいと思っています。
 受付の今後の対応として12月2日以降は、特に以下の点に注意しておきたいと思います。
 特に、心配している事は自分が「紐づけ」しているか覚えてないと言う問題です。
 個人的には、来院される全ての患者さんに以下の3パターンの場合の説明と、自作したパンフをお渡ししています。
1. マイナンバーカードを作り、保険証を紐づけしている場合
2. マイナンバーカードを作っているが、保険証紐づけしていない場合
3. マイナンバーカードを作っていない場合
 1.2.3の場合全てに該当することは「今の保険証は使えるので、使える期間はずっと使ってください」とお伝えすること。これが急務と思っています。
 そして、最も重要なのは「どの場合も安心してください」と伝える事です。
 患者さんの心配も、そして医院での受付トラブル回避のために、そして保険医療を受けたい全ての国民がスムーズに受診出来る事を願っています。
 PDF、WORDのパンフ(FREEです)を張り付けていますのでご活用いただければ幸甚に存じます。

運転免許証と同じ建付けになってほしい健康保険証

   政策部解説Vol.180 2024.11

 先ごろ、運転免許証をマイナ運転免許証と現行の運転免許証の両立で運用していくことが決定されました。どちらか1つでも良いし、2つ持つのも良いとの事です。取得時に多少の費用が異なるくらいの事があるくらいで概ね国民に受け入れられた決定です。
 それに引き換え健康保険証は、今年12月2日から新規の保険証発行はストップ。やがて確実にマイナ保険証と資格確認書に変わっていくことになります。(ただし、この原稿を書いている10月上旬時点ですが)総選挙後、変わるかもしれません。
 そういえば、自民党総裁選挙の時、石破現総理と林官房長官だけが、混乱を来たすようなら現行保険証の12月2日以降新規発行廃止について時期を先延ばしすることも可能、との発言でありました。しかしながら、政権発足後、平デジタル大臣は12月2日をもって廃止の旨の発言を致しました。となると、石破氏は国民にリップサービスしただけだったのだと失望しました。
 新しく資格確認書を作る手間と経費を考えたら、現行の保険証を残しマイナ保険証は利用したい人だけにすれば溜飲が下がる思いがします。
 運転免許証と健康保険証のこの建付けが異常な程に違ったことは、「お金」と省庁間の「強さの差」が反映されたのだと「私個人的に」考えています。
 個人の疾病や治療内容については、レセプトが保険者経由でそれを利用して商売することは既に出来ているので敢えてマイナ保険証にする必要はあるのだろうかと疑問を持っています。経産省や厚労省の医療DXの方針を拝読しても「よりよい医療」「国民の健康のため」と読める美辞麗句がありますが、所詮は企業の「儲け」の道具です。では、なぜICTやネットを使った方法なのか、答えは関連の業界への莫大なお金の流れだと考えてしまいます。
 マイナ保険証だと年間100億円の経費削減と言う政府の試算がありますが、これは70%の利用率が前提条件です。現行の保険証を残した時の経費とマイナ保険証にした時を対比させたデータは出されていません。
 試算から除外された巨大な「隠れコスト」については言及していません。例えば、2023年の補正予算においてマイナ保険証推進費として887億円。マイナンバーカードの取得やマイナ保険証の登録推進でマイナポイント事業を行っていますが、1兆3779億円(2024年5月13日段階)の予算を執行。マイナンバーカード管理システム運用の関連費用で2021年度に113億円、2022年度には290億円。その上、毎年マイナ保険証維持費が250億円程度です。以上のように、いわば隠れ借金がざっと見ても、1兆5000億円です。件のように「年間の経費削減が100億円」「ああそうですか」と、そのまま素直に受け入れられません。
 それからココが大事なのですが、医療機関がオンライン資格確認システムにかかる経費、マイナ保険証関連に掛かる経費など(回線使用料、機器費用)は医療機関のこちら持ちです。(零細な歯科医療機関ですら一月2~3万円)全国に医療機関がある限り莫大なお金がICT関連5社に流れていきます。
 次に、「省庁間の強さの差」。これは、デジタル庁VS厚労省として考えた時、昨年12月、保険証の廃止について発表したのが、前デジタル大臣の河野太郎氏。普通に考えたら厚労大臣が述べるところがデジタル大臣でした。デジタル庁>厚労省。ところが、運転免許の管轄は警察庁、マイナ運転免許証と現行の運転免許証の両立が出来たのは警察庁=デジタル庁と言う力関係が働いたのかと考えてしまいます。
 願いは一つ、健康保険証を残してください。切に願います。   

「人命よりお金、人命より儲け」なのですね。

   政策部解説Vol.179 2024.10

 「マイナ保険証への一本化」について、その問題点を考えるシンポジウムが8月31日にありました。そのシンポジウムでの内容が非常に的を突いたものでありました。
 個人的に拝読している弁護士ドットコムで、このシンポの内容について的確な記載(現行の保険証とマイナ保険証の対比)がありましたので紹介いたします。
 最初に結論から申し上げます。利用者目線では医療機関等の受付でのマイナ保険証の利点は乏しいと思います。
 
 現行の保険証は、
1.受付に渡すだけ、1秒で受付が終わる(誰でも使え、受付渋滞の可能性が低い)
2.どこの医療機関でも使える
3.保険証は保険組合や役所から自動的に送られて来る
4.患者さんのマイナカードの携帯不要
5.カードリーダー不要(医院の機器・メンテナンス・通信費用不要。機器のシステムトラブルとは無関係)
6.停電でも利用OK。地震などの非常時には特に有効。
 
 マイナ保険証では初診のときも再診のときも毎回マイナ保険証を出して「顔認証付きカードリーダー」で以下の手順が必須になります。
1.マイナンバーカードを「顔認証付きカードリーダー」にかざす。
2.「本人認証」は顔認証または4ケタの暗証番号の入力によって行う。
(暗証番号を3回間違えたらブロックされるので、解除するには役所に行って所定の手続きをしてください)
3.カードリーダー画面に出てくる「資格確認」の前に「医療情報の提供」に関する同意の確認・選択を行う。すると「オンライン資格確認等システム」にアクセスされ、資格確認される。
 当然ながら、これら1~3の手順でどこか1つでも問題が発生したら「資格確認が出来ないから、原則保険診療はその場では出来ない」
 保団連では実例に基づくマイナ保険証使用時のトラブル動画を作っていますので、ご覧いただけたら幸いです。
 本紙8月号「政策部解説Vol.177」で紹介しましたが、マイナ保険証トラブルで患者さんの命を失ってしまった実例はマイナ保険証なら日本全国どこにでも起こりうる事例です。
 マイナ保険証ですぐに資格確認が可能、と言う触れ込みがありますが、これは大きなマチガイ、デマと言ってもよいでしょう。
1.転職して新しい保険証に変わるとき(迅速に切り替えをするよう保険組合に通達されているようですが、保険者の担当者による手作業(アナログ作業)のため必ずタイムラグがあります。
2.社保→国保に変わったとき
3.市町村国保の方が市外に転居した時も同じです。
 手作業に依存する切り替え作業が完了していない時は「マイナ保険証」は役に立ちません。(実は、このことは国の資料にも記載されています)こんな重大なことを資料の片隅にコッソリ書いて終わり、ということもいささか心に引っかかります。
 そしてココが重要な所ですが、マイナンバーカードの電子証明書は5年の有効期限があり、切れればマイナ保険証は利用できなくなります。この点への国民へのアナウンスがされていないので有効期限切れによりいわゆる「無保険」者が相当数出て来ます。
 マイナ保険証なら「お薬」の確認がリアルタイムで出来ると良く言われますが、レセプトデータが反映して初めてマイナ保険証に出てくるのであるから「2か月以上先」にならないと確認できません。リアルタイムでの情報なら「お薬手帳」です。もちろん停電でも役に立ちます。 
 危機管理の点から現行の保険証は必須です。 
 日本に定着している「保険証」を拙速に廃止し、その上担当大臣は国民全員に次から「確定申告しろ」などと、いかにも唐突で国民目線・生活からかけ離れた発言まで出ています。保険証廃止に留まらず「デジタル化」という事で全て現実的でない方向に進めていくのかという危機感を持っています。 
 以下に現実的対応を記載いたします。 
マイナ保険証について国民の状況は次の3通りに分けられます。
①マイナンバーカードを保有し、健康保険証を紐づけている
②マイナンバーカードを保有しているが、健康保険証を紐づけていない
③マイナンバーカードを保有していない 
 今後、①~③すべての場合に、自身が加入する健康保険に関する情報が記載された「資格情報のお知らせ」が一度は送られる予定です。 
 ②と③の場合には「資格確認証」が今後送付されます。しかし、保険者は送付に当たって、一人ひとりについて、①~③いずれに該当するかの選別を行わざるを得ません。膨大な事務作業で担当職員の疲労は計り知れません。これがデジタル大臣の言う「デジタル化」の現実なのです。 
 ①の場合でも、マイナ保険証の有効期間切れ(電子証明書の失効)を把握し資格確認書を送付しなければ「無保険扱い」が避けられないはずですが、総務省、厚労省や支払基金は正確に把握していないことが昨年明らかになっており、その後有効な対策が取られているようには見えません。 
 前述したように、「デジタル化」と称して現実とかけ離れたことを保険者、そして国民に強要するのが今の国家なのかと思うと逃げ出したくなります。

新規保険証発行停止にマッタをかけましょう

   政策部解説 Vol.178 2024.9

 毎日診療していて患者さんから、ここ最近マイナンバーとマイナ保険証の質問や不安が多くあります。これは、私が、ずっと保険証存続のお話をしているからでしょう。
 そして、来院される患者さん(一人でも多くの方々)に「保険証を残す」運動にご協力をお願いしています。
 具体的には現行の保険証とマイナ保険証の優劣から患者さんご自身に考えて頂くような話の内容にしています。
 
1)  ① 保険証ならスタッフに渡すだけですので、僅か1秒で終わり。受付はこれで終 
わり。
②    マイナ保険証ならカードリーダに翳す。次に、顔認証か暗証番号の入力、暗証番号が3回間違うとその段階でロックがかかりこの時点で受付は出来ない。暗証番号のロックを外すには市役所・区役所などに直に足を運んで頂きます。再発行なら、数週間掛かる。その間、どの医療機関にでも保険での診療は出来ない。これが、マイナ保険証。
顔認証か暗証番号で上手くいっても、3つの確認事項が画面上に出てくるので「はい」「いいえ」をその場で躊躇うことなく直ぐに選択していただくことになります。
そこもクリアして最後の段階です。オンラインシステムで「資格情報なし」とでてしまうと、保険に入ってないか、紐づけ出来てないか、その他の原因で当該の患者さんは保険に入ってない、との事で保険診療は出来ない。
マイナ保険証の資格確認までの「操作」のハードルは高いし、上手くいっても30秒以上掛かる。
2) 「お薬手帳」があれば、今さっき行った医療機関で出された薬の処方が即座に分かります。マイナ保険証でも処方された薬が分かるとは言われていますが、これは診療が終わって「医療機関が保険を出してから(患者さんには「レセプト」などとは言わない)大体、2か月以上掛かって出てくるので、最近出された薬の情報は出ない」
3) 最近よく聞く「医療DX」って何だと思いますか?「結論は国民の健康・病気などの情報」を集めて企業の儲けの道具になるのですよ。「自分の病気の履歴が他人に見られるのはどうなんでしょうかね。プライバシーってないのでしょうか」
4) 保険証は天災やトラブルに強い。マイナ保険証は、能登半島地震のような停電やシステムトラブルが起きれば何もないただのカード、当然ながら薬の情報は出ません。
 
 先日、福岡の放送局の報道センター部長さんと「保険証を残せ」の活動で懇談することに恵まれました。2時間もの長時間の懇談で報道センター部長さんの関心が強く伺えました。
 席上、マイナ保険証の使用方法が複雑で所謂「弱者」を無視したものであることであることを述べた所、最近取材された「新札」の例を話されました。
 N鉄道では、今回の新札両替機を電車の駅、バスの車内に導入し「利用者」の利便性向上に努めました。N鉄道を利用するお客さんの9割は交通系ICカードを利用し、残り1割が現金利用との事でした。この両替機設置には数十億円の経費が掛かるとの事ですが、両替機を設置してもN鉄道には何の儲けもありません。しかし、1割のお客さん(主に、高齢者、ICカードに不慣れな方、そしてICカードを忘れた方)のために配慮した「優しい」対応です。利用者目線での対応を第一に考えての事と理解しました。
 保険証が「現金」でアナログ、マイナ保険証が「ICカード」でデジタルとの対比。
 医療が生命にとっての必需品であるにも関わらず、受診機会遠ざける施策はストップしなければなりません。
 「官」が如何に国民に冷たいか、健常者で若く適応能力があるのが「日本国民」としてしか見ていないデジタル庁、厚労省、そして今の内閣が透けて見えてきた感じがしました。

保険証があれば救えた命

   政策部解説Vol.177 2024.8 

 既に読まれた会員の先生方もいらっしゃると思いますが、マイナ保険証トラブルで死亡された方の記事が報道されました。お亡くなりになられた方には心より哀悼の意を表します。
 事実を週刊新潮からの記事(2024/06/20号)から要約いたします。岐阜市のTクリニックで実際にあった事です。個人的にTクリニックの院長先生とはお付き合いがあり、とても他人事とは思えず心が痛みます。
 経過ですが・・・6月3日に78歳の女性患者さんが胸痛などの症状でご主人に付き添われて来院、1年程前から軽度の認知症を患われておられました。受付で「保険証を持参しておらず、マイナ保険証しか持ってきてない」とのことで「顔認証はスムーズでしたが、最後の段階で、『資格情報なし』と表示されました」「付き添いのご主人は、何度も最初から試したのですが、結果は同じでした」クリニックの受付は、保険者に電話で問い合わせたところ、保険証があるかないかを含めてお調べしないと分かりません、との返事でした。受付の事務員は「今の段階では資格がないことになりますので、10割負担か、被保険者資格申立書(注)を提出してもらうことになります」とのお話をしましたが、ご主人は10割払うには手持ちがないし、申立書の提出も拒まれました。そうしているうちに症状も落ち着いてきたので明日保険証を持参して出直します。とのことで帰宅しました。
注:マイナカードでオンライン資格確認が出来ない時、窓口に提出すれば所定の負担割合で受診出来るものとして2023年7月から導入された
 事態は急変。翌朝3時に患者さんが苦しそうな様子を見せたので夫は救急車を呼び、総合病院の循環器内科で様々な高度医療を施され、蘇生も試みられたのですが結局、心筋梗塞でお亡くなりになられました。
 ここで問題なのはマイナ保険証のしくみです。記事から抜粋すると1)マイナカードを申請し、保険証の登録をすること、2)医療機関での本人確認(顔認証、暗証番号)、3)マイナ保険証の資格情報をオンライン資格確認システム経由で照合する、これら全てをクリアして初めてマイナ保険証が有効に使えるということになります。逆に言うと1)2)3)のどこかに1つでも齟齬があるとマイナ保険証は保険証としては役に立たないという事になります。
 こんな時、単に「保険証1枚」ならばこのように受診の機会を逃す結果にはならなかったと思うと残念で悔しくて心のやり場がありません。
 そもそもマイナカード取得が「任意」なのに、国は保険証や自動車免許証に至るまで何でも紐づけてマイナカードが無くては何も出来ない言わば「義務」の素地を作ろうとしています。しかしながら、「任意」だからその取得と責任は「国民が負え」という事になっています。マイナカードに関することで問題が起きてもそれは、「オマエが悪い」というのが国の立場です。Webで「マイナポータル規約」を検索してください。その第26条(免責事項)です。
 「マイナポータルの利用に当たり、利用者本人又は第三者が被った損害について、デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとします。」(原文ママ2024/7/1)
 これら一連の流れからすると、マイナカードに紐づけたマイナ保険証を事実上義務付けして、何か問題があってもその責任は取らない。「だって任意取得でしょ」ということなのです。今回のように人の命に関係しても「知らぬ、存ぜぬ」。
 人命よりマイナンバーカードが大事と言いたいのでしょうか。国(デジタル庁、厚労省)の責任は重いと感じました。